蘭 story
平行線になっていた 俺たちの関係 はきっと、自分が介入してきたことによってもっと歪になっただろう。
信じたくなかったこの感情の発生。
ひとりでベンチを占領したってなにも面白くなんかねぇんだよ。
自分の体を起こすとズルズルと堕落しきった感情を引きずりながら歩く。
俺のそんな姿をみた奴らがみんななにか口々に言ってるのが少し聞こえた。
どうでもいいと思った。
前まで自分のことを言うやつがいたら髪の毛でも毟ってやろうという勢いだったのに。
暫く歩いていると外からでも体育館に行けるようにと作られているであろう2段ほどの段差に座り込んでる女がいた。
よくよく見てみると、それは あなた だった。
なにしてんだよと思って気になってしまうのはきっと俺の感情のせい。
少しずつ歩み寄ってみると、すぅすぅと寝息を立てていた彼女。
どうやら寝ているようだ。
こんな場所で寝るなよ と 自分の頭をガシガシとかいた。
こんな時に限って あの話 を思い出す。
" 好きな女かどうかを確かめる方法 " なんて、キャパが知れてるっての。
それなのに、それなのにどうしても試したかった。
少しずつ顔を近づけて、瞼を閉じた。
あー、こんなこと童貞だってしねぇよ
俺もしかして今ちょーきもい?なんて。
唇を離すとしばらく彼女の寝顔を見ていた。
目頭があつくなったのはきっと
この感情に正式な名前がついてしまったから。
俺を苦しめていたのは、自分にとって1番欲しかった……そして、自分自体でも知りたかった……
愛情 という名の 病気 だった。
そう、確かに彼女とのキスには 情が湧いたのだ。
この上なく幸せで、そしてほんの少しの苦っだるい 罪悪感 が___
・
・
物音がしてハッとした。
すぐに身を隠すと、その物音の招待は彼女の友達の足音だったよう。
由奈「ちょ、あなた 最近寒くなってきてるんだから外で寝ないの!ほら起きて!」
『んぇ……寝てたかな……へへへ…最近見てるドラマがすごく面白くてさぁ〜……』
楽しそうに話す彼女。
こんな彼女の 笑顔 を一瞬でも奪ったのは誰だ?
この感情を知ってしまった俺は、自分のしてしまったことがどれだけ最低だったかを実感した。
そりゃそうだ。
こんな俺は誰からも愛されないだろう。
今までだって、自分から 優しくもできない ような奴がなぜ都合よく 愛情 だけ受け取れると思っていた?
" 夢見すぎでしょ笑 "
かつて彼女にかけた言葉はまるで
俺のことじゃないか____
誰でもよくなんかない。
俺は、俺は…………
あなたじゃないといけないのに__
もう俺の生き方にはたかが知れている。
これからもきっと、母親や父親にいいように使われて、自分の人生だって、なんだって
全部全部自分では決められない。
竜胆のように、打ち解けられるような友達だってきっとできない
あぁ、俺は竜胆 お前がずっとずっと
羨ましかったんだよ__
お前の周りには、ちゃんとお前を慕ってくれる人がいて、恋なんかはよくわからないけれど、兄ちゃんよりは前進してるだろう?
今まで竜胆にはとてもじゃないけれど、辛い思いばっかさせてたなぁ……笑
あぁ、まだ泣く時じゃねぇよ 俺。
俺がずっとしたかったことはなんだ?
よくいうような 幸せな家庭をつくること? 大金持ちになること?
いや、違う
俺は、俺がしたいことができる世界がほしい。
それなら今の俺のいる世界はきっと
権力にねじ伏せられて何も出来ないような世の中だ。
ならしたいことは
自分自身の存在を消すこと
蘭 story END
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。