『……傑はさ、術師だけの世界を作りたいの?』
夏「……うん、よく分かったね」
『九十九さんと話してるの…聞いちゃったから』
夏「……そっか」
『……ねぇ、傑』
夏「…ん?」
『……どうしてここに来たの?』
………どうして、なんて。
随分とずるい聞き方をする。
夏「……君こそ、どうしてここにいるんだ」
『……傑が来ると思ったから』
夏「……」
『……私が止めに来たと思ってる?
行かないでーって…泣くと思ってた?』
夏「……」
『………もう弱いままの私じゃないんだよ』
彼女は私の手を握ると真っ直ぐな瞳でこちらを見つめ、はっきりとそう言い放った。
………あぁ、そうか。
夏「………もう一人でも大丈夫だと、伝えに来てくれたんだね」
私が暗闇をさまよっていた間、君はちゃんと光に向かっていたんだね。
………弱くて脆くて泣き虫な彼女は、もうここにはいないのだ。
私はもう、彼女には必要ない。
『………は、ははっ…
傑って、ほんと…バカ………っ』
夏「………え…?」
そう思っていた矢先にボロボロと涙を流し始める彼女。
いつもの癖で思わず彼女の目元に手を伸ばすが払いのけられてしまう。
『……私は…っ止めに来た訳でも…
一人でも大丈夫だって、言いに来た訳でもない…っ!』
彼女がこんなに大きな声を出したのは初めて見た。
……こんなに、私に怒りをぶつけるのも。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。