お母さんにあったら、怒られるだろうな。
「心配したわよ」って。
それはそうだ。私が無理を言って行ったのにもかかわらず、1日帰ってこなかったのだ。
申し訳ない。何か買っていこうか。
そう思ったけど、やめた。
まず、一番に顔を見せないと。
これ以上、心配かけてはいけない。
私はもっとペースをあげた。
なんか、いつもと違う。
みんなの目が、違う気がする。
いや、いつもと同じだ。
変わらない毎日だ。
家に帰ればお母さんと弟、妹たちがまってる。
まってる__________________
家の前に、母が倒れている。
血だらけだ。
母は末っ子の光代を抱えている。
信じられない。
これはなんだ。
何があった。
なんでみんな________________
家のなかを見ると、血でいっぱいだ。
そのとき、佐吉おじさんの言葉をおもいだした。
みんな___________________
そう思うといつの間にか、
走り出していた。
息が苦しい。辛い。町に行って何が出来るのかもわからない。誰かが助けてくれると分かってるわけでもない。でも走る。それしかできない。今の私は、何を考えているかわからない。何も考えていない。そんな暇がない。
とりあえず、走らなければならない
走る。いつもは使わない、裏道で行く。崖のようになっていて、危ないからだ。でも、そんなこと考えている暇なんてない。早く助けなきゃいけないの。早く、早く早くっ__________
無我夢中で走っていたら、足を滑らせて落ちてしまう。痛い。涙がでる。でも、鬼に食べられた家族のほうが痛かったはずだ。だから、私は泣けないの。それより、ここは
わからない場所についてしまった。
田んぼがいっぱいある。平地だ。屋台が何個かあって、何人か人がいる。
どこだっていい、助けを呼ぶんだ。
みんな、あともう少し
待ってて
みんなにうったえる。涙がたまる。でも、ながさない。必死にうったえる。
なのに
誰も助けてくれない。
なんで
なんでなの。
みんな見るのに
変な目で通っていく。
ほんとだよ。
冗談見たいに聞こえるけど
鬼に、食われたんだ。
なんで、助けてくれないの。
みんな、無視しないで。
助けて。
胸が痛い。しっかり言葉がでない。
寒いなか、雪の降るなか走ってきたから、肺が痛い。死にそうだ。でも死ねない。
なのに
意識が遠退いていく。
誰か_____________________
私は、目を閉じた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!