助けてよ______
私は、町に出掛けていた。
私はとある一家の長女だった。
母と、私を含めた五人の兄弟で暮らしていた。父親の姿は見たことがない。物心ついたころにはもういなかった。母いわく、『鬼殺隊』というところで働いていたが、急に帰ってこなくなったらしい。
だから、私が妹たちを助けなきゃいけない。
お父さんの代わりに、お母さんを楽させてあげるんだ。
そう思ってほぼ毎日家から町に出て、商売をしている。
その日は少し寒かったけど
普通の日だった。
のに___________________
そう元気にやってきたのは、町で和菓子屋を営んでいるところの次女で私の友達だった。
友達は「ほんと、凄いな」と呟きながら笑っている。
私は偉くない。私は知っている。
お母さんは私をいい学校に行かそうとしてるんだ。いい人生にして欲しいって思ってる。
でも、わかる。私に一番お金がかかっていることを。それは当たり前だ。一番年上なのだから、色々お金がかかる。だからその分、私はお父さんの代わりに働かなきゃいけないんだ。
そういえば、と友達はそう持ちかけた。
いつも友達は、新作が出来ると私にまず味見をさせてくれる。
和菓子なんて食べる機会がないから、とてもうれしい。でも最初のうちは拒否していた。
「妹と弟たちに、申し訳ないよ…。」
私だけ食べるなんて。
私は長女じゃないか。
私が、我慢しなきゃいけないんじゃないか。
すると友達は
「じゃあ家族分あげる!だから私の前では遠慮しないで!」
私は驚いた。
遠慮しないで、何てはじめて言われた。
とても、嬉しかったのかもしれない。
私は「うんっ!」とうなずいた。
でも今日は遅いから_____________
そう持ちかけた。
すると
友達のおばあさん、美千代さん。
美千代さんは耳が遠く、さらに病気を持っている。
だから話を断れない。友達の親もいつも忙しくてなかなか相手ができないのだ、と聞く。いつも私の事を楽しみに待っているらしい。
しかたない、少しだけなら__________
ほんとに少しだから、許してお母さん。
美千代さんも助けてあげたいの。
今思うと、ここで断れたら_________。
私の人生は大きく違っていただろう。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。