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第1話

あの日 その1
1,475
2019/09/09 04:51
あなた

誰かっ!誰か………

助けてよ______






















私は、町に出掛けていた。
母
あなた、今日は行かなくてもいいのよ?
寒いし……もう午後だわ。今から行くなんて心配よ。
あなた

大丈夫よ、お母さん。
しっかり帰ってこれる。
それに、妹たちにいっぱい食べさせてあげたいから。

私はとある一家の長女だった。
母と、私を含めた五人の兄弟で暮らしていた。父親の姿は見たことがない。物心ついたころにはもういなかった。母いわく、『鬼殺隊』というところで働いていたが、急に帰ってこなくなったらしい。
だから、私が妹たちを助けなきゃいけない。
お父さんの代わりに、お母さんを楽させてあげるんだ。
そう思ってほぼ毎日家から町に出て、商売をしている。


その日は少し寒かったけど
普通の日だった。











のに___________________






















友達
友達
あれ!あなたちゃんじゃない。
今日も町に来てるのっ!
そう元気にやってきたのは、町で和菓子屋を営んでいるところの次女で私の友達だった。
あなた

うん!今日も町で商売をしてたんだ。

友達
友達
あなたちゃんは偉いなぁ。
私なんて家のために働いたことないよ?
凄いわぁ。
友達は「ほんと、凄いな」と呟きながら笑っている。
あなた

そんな……偉くなんて、ないよ。

私は偉くない。私は知っている。
お母さんは私をいい学校に行かそうとしてるんだ。いい人生にして欲しいって思ってる。
でも、わかる。私に一番お金がかかっていることを。それは当たり前だ。一番年上なのだから、色々お金がかかる。だからその分、私はお父さんの代わりに働かなきゃいけないんだ。
友達
友達
あっ!そういえばさ、新しい新作がでたんだよね!是非味見して欲しいんだけどなぁ~!
そういえば、と友達はそう持ちかけた。
いつも友達は、新作が出来ると私にまず味見をさせてくれる。
和菓子なんて食べる機会がないから、とてもうれしい。でも最初のうちは拒否していた。
「妹と弟たちに、申し訳ないよ…。」
私だけ食べるなんて。
私は長女じゃないか。
私が、我慢しなきゃいけないんじゃないか。
すると友達は
「じゃあ家族分あげる!だから私の前では遠慮しないで!」
私は驚いた。
遠慮しないで、何てはじめて言われた。
とても、嬉しかったのかもしれない。
私は「うんっ!」とうなずいた。




でも今日は遅いから_____________
あなた

ごめん、今日は遅いからさ。
また今度にしない?

そう持ちかけた。
すると
友達の祖母
友達の祖母
あなたちゃん、来てたのかい。
さぁ、なかにお入り。
あなた

み、美千代さん。

友達のおばあさん、美千代さん。
美千代さんは耳が遠く、さらに病気を持っている。
だから話を断れない。友達の親もいつも忙しくてなかなか相手ができないのだ、と聞く。いつも私の事を楽しみに待っているらしい。
しかたない、少しだけなら__________
あなた

あ、はい。お邪魔します。

ほんとに少しだから、許してお母さん。
美千代さんも助けてあげたいの。





今思うと、ここで断れたら_________。




私の人生は大きく違っていただろう。

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