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第4話

#3
2016年 秋

入学してから1年が経って、私たちは2年生になった。
進学校である卯波高校は、受験で忙しい3年生ではなく、2年生がイベントの中心となる。
そして、この日は体育祭。

「リレーの第1走者なんてやだよー。」

京香に泣きつく私は、この後に控えているクラス対抗リレーの第1走者にエントリーしていた。
本当は走りたくなかったのに、運動部兼足の速い人優先で勝手にエントリーされ、バレーボール部所属、50m走7秒台の私はもれなくエントリー対象になった。

「大丈夫だよ。凛、足速いし、宮久保くんも浩介もクラ対だからさ。」

黎と浩介はハンドボール部所属、50m走6秒台なので、もちろんクラス対抗リレーにエントリーしている。
浩介が第2走者、黎がアンカーだ。

「いいなぁ。京香は綱引きだけでしょ。」

「そうだけど、リレーの方が楽しいでしょ。」

「楽しくないよ。遅かったら、絶対みんなに責められる…いだっ。」

頭を棒のようなもので叩かれた。
頭をさすりながら振り返ると、バトンを持った黎が立っていた。

「何やってんだ。招集かかったから、行くぞ。」

「…はぁ。」

盛大にため息をついて、黎とともに招集場所へ向かった。
私たちが最後だったようで、招集場所に着くと、すぐに入場した。
1学年10クラスあり、その中でも運良くインコースを引き当てた私の右隣りには、足の速そうな女子たちがずらりと並んでいる。

「On your mark」

第1走者が一斉に構える。
スタートの合図を待ち、あたりが静けさに包まれた。

パァンッ

合図とともに、走り出す。
隣の女子と競り合いながら、カーブに入った。
このカーブを越えた先には、第2走者の浩介が待っている。
カーブを抜けようとしたその時、横から強い衝撃を受けて、体が傾いた。
視線を向けると、隣の女子が私を見ていた。
見たことのある顔。
黎の追っかけの女子だった。
口をパクパクさせて、私に何かを言った。

(ざまあみろ。)

私はそのまま倒れこみ、後続の女子に右足首を踏まれる。

「いっ…!!」

顔を上げると、みるみるうちに背中が遠くなっていく。
私は歯を食いしばって起き上がり、足の痛みを無視して走り出した。

「大丈夫か!?」

浩介が心配そうな表情で、私に声をかけた。
私は必死に笑顔を作って応えた。

「ごめん!大丈夫!」

浩介にバトンを渡す。
足を止めて膝をみると、見事に血だらけだった。

「凛。」

聞きなれた声が聞こえて振り返ると、黎が浩介と同じように心配そうな表情をしていた。
こんな顔、初めて見たかもしれない。
先ほどのように、笑顔を作る。

「大丈夫だよ。それより、ごめんね。最下位になっ…。」

「誰かに押されたんだろ?」

「っ…!」

気づかれていた。
しかし、黎の追っかけの女子だって知ったら、黎が責任を感じてしまうかもしれない。

「…違うよ。私がつまずいたの。」

黎は黙ったまま、目を伏せた。
次に目を開いたとき、いつになく真剣な眼差しをしていた。

「ここで待っとけ。あとで保健室連れていく。」

黎はスタート位置に向かった。
私と黎が話している間に、第5走者が走り出していた。
現在の順位は5位。
みんながかなり挽回してくれたようだ。
1位のクラスともそう差はついていない。
アンカーはトラック一周、200mを走る。
逆転のチャンスは充分にある。
そして、黎にバトンが渡された。
早々に1人抜いて、1位との差をぐんぐん詰めていく。
私は足の痛みなんか忘れて、黎に夢中になっていた。
2人目、3人目を抜き、ついに先頭に追いついた。
残りはあと50mほど。
私は無我夢中で叫んでいた。

「黎ーーーーッ!頑張れーーーーッ!!」

ゴールのあたりに人が群がっていたため、勝敗はわからなかったが、すぐにアナウンスが流れる。

「なんと!最下位だった7組が大逆転で優勝!!」

生徒が一斉に歓声をあげる。

「ははっ…すご。」

私は力が抜けて、その場に崩れ落ちた。
女子が甲高い声をあげて集まっている。
きっと、4人抜きで大逆転を果たした黎が目当てだろう。
しかし、その集団の中から黎が姿を現して、私のもとへ近づいてくる。
そして、私の目の前で立ち止まり、目線を合わせるようにしゃがんだ。

「立てるか?」

「う、うん。大丈夫だから…って、ちょっと!!」

黎は私を抱きかかえて、歩き出した。

「その膝じゃ、無理だろ。足首も痛めてんだろ?」

私はこくりと頷いた。
全部お見通しのようだった。
全校生徒に見られて、すごく恥ずかしかったが、足が痛くて抵抗することができなかった。

そのまま保健室に連れていかれ、手当てまでされる。

「靴下脱げ。あと、膝洗え。」

黎に言われた通りに靴下を脱ぎ、膝を洗おうとするが、あまりの痛さに手で触れるのが怖い。
洗うのをためらっていると、黎が私を後ろから抱きとめ、容赦なく膝に水をかけて洗っていく。

「いだっ…自分でできるから、いいって!」

「ためらってんのお前だろ。さっさと洗わないと、体育祭に戻れないだろうが。」

丁寧に血を拭って、砂を流していく。
洗い終えると、思いっきり消毒をかけられた。

「いったーーーッ!!」

「我慢しろ。」

黎は手際よく手当てをしていく。
踏まれた右足首も軽く洗って、湿布を貼ってくれた。

「よし。戻るから、さっさと靴下はけ。」

膝が痛み、曲げられないので、ゆっくり慎重にはいていく。
黎ははき終えたのを確認すると、私の前にかがんだ。

「…ん?」

「乗れ。」

「…え、無理です。」

「じゃあ、お姫様抱っこにするか?」

「おんぶでいいです…。」

黎の背中は大きくて、あたたかかった。
心臓が大きく脈打つ。

私は、黎のことを好きになってしまったかもしれない。