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第7話

#6
2018年 3月

すれ違ったまま時間は過ぎていって、ついに卒業式の日を迎えた。

「卒業生答辞。卒業生代表、宮久保黎。」

「はい。」

入学してから常にトップクラスの成績だった黎が答辞を読むことになったというのは、昨日の予行練習で初めて知った。
私はここ最近、黎とろくに会話をしていなかったからだ。
入学した頃に戻りたい。
そうすれば、黎への想いも今のこの苦しい想いもつらい想いも、全て消すことができるのに。

「卒業生、退場。」

いつもなら長く感じる式典が、あっさり終わってしまった気がする。
私はぼーっとしたまま、体育館を出ていった。
教室に戻ってきて、自分の席に着く。
あたりを見渡しても、黎の姿は見当たらなかった。

(また、女子に囲まれてるのかな。)

机に突っ伏する。

(…もしそうだったら、嫌だなぁ。)

泣きそうになるのを必死に堪えていたその時。

「凛っ!!」

勢いよく教室に入ってきたのは、息を切らした京香だった。
私は突っ伏していた顔を上げる。

「凛!急いで!」

「な、なに?」

「黎、もう空港向かったって!今日の飛行機で、アメリカに発つんだって!!」

「だからって、私は…。」

「本当にいいの!?これが、最後のチャンスだよ!?」

京香が必死の形相で訴えてくる。
我慢していた涙があふれていく。

本当は、ちゃんと伝えたい。
この想いを、黎に。

「…行く。行くよ。」

最後なんだから、もうどうなったって構わない。
私の答えを聞いて、京香は笑顔を見せた。

「浩介がタクシー呼んでくれたから、行こ!」

「うん。」

私と京香は急いで正門前に向かった。


「あ、やっと来た!」

正門前でタクシーと待っていた浩介が、駆け寄る私たちに大きく手を振る。
そして、急いでタクシーに乗り込んだ。

「ごめん。ありがと。」

「あとでジュースおごりな。おっちゃん、空港まで頼む。」

「はいよ。」

タクシーが動きはじめる。
浩介は腕時計で時間を確認する。

「あいつ、ここをすぐ出ないと間に合わないって言ってたくらいだから、俺たちが着くの結構ぎりぎりになるかもな。」

「いいよ。少しでも話ができればいい。ありがとね、京香も、浩介も。」

京香と浩介は笑顔で応えた。
1時間半ほどで空港に着いた。
タクシーの運転手に待っててもらい、私たちは空港の中に黎を捜しにいった。
平日だというのに人が多くて、なかなか見つからない。
走り回って黎の姿を探していると、ようやくたくさんの荷物を持った黎を見つけた。

「黎!!」

名前を呼ぶと、振り返った。
私はとっさに駆け寄り、勢いよく抱きついていた。

「いって。」

「あ、ごめん。」

我に返って、体を離す。
何かしゃべらなきゃと思うのに、言葉が出てこない。
先に口を開いたのは、黎だった。

「…黙ってて、悪かった。」

「え?」

「アメリカに行くこと。」

「あ、ああ、それは全然、いいの。」

言わなきゃ。
でも、どう伝えたら…。

「…俺、もう行くわ。」

なにも言わない私にしびれを切らしたのか、黎は踵を返そうとする。

「ま、待って!」

黎は足を止める。
言わなきゃ…!

「あの、友達、卒業します。」

「…は?」

黎は首をかしげた。
うまく伝えられない自分が情けない。
でも、言わなきゃ。
これが、最後のチャンスなんだ。

「黎のことが、ずっと前から好きでした!でも、周りに女子が集まる黎に、想いを伝える勇気がなくて、黙ってました!でも、もう最後だから…あなたが好きです!だから、友達、卒業します!!」

「大声で言うな、バカ。」

ふいに抱き寄せられる。
気づけば、黎の腕の中だった。
一気に顔が熱くなる。

「れ、黎??」

「周りの状況考えて告白しろ、アホ。」

黎の体が離れる。
見上げると、黎の顔は真っ赤になっていた。
私の視線に気づいて、私の目を手で隠そうとする。

「見んな。」

「やだ。」

「…俺も黙ってようと思ってたんだけどな。」

つぶやいたその言葉は、私の耳には届かなかった。

「え?」

黎が優しくほほえむ。

「お前に泣かれるのが嫌で言わなかったけど、俺も、凛のことが好きだよ。」

私は嬉しくて、涙があふれてきた。

「おい、ここで泣くなよ。」

「仕方ないでしょ。」

「あ、凛いた!」

黎を捜していた京香と浩介が駆け寄ってくる。

「はぁ、疲れた。凛、言えた?」

「うん。ちゃんと言ったよ。」

私が笑顔で答えると、京香も安堵したような笑みを浮かべた。

「ていうか、黎。もう会えるの最後なんだから、黙っていくなよ。」

「…誰が最後って言った?」

「へ?」

3人揃って素っ頓狂な声をあげる。
黎は呆れたような笑みを見せた。

「俺、大学生の4年間だけアメリカで、卒業したらこっちに戻ってくるつもりだったんだけど。」

3人で顔を見合わせる。
そして、京香と浩介が私の方に顔を向けた。

「あー…なんか、ごめんね?私と浩介の早とちりというか…。」

私はなんだかおかしくなって、吹き出した。

「ふふっ、いいよ。結果オーライだよ。」

実際、京香のあれだけ強い後押しがなければ、きっと私は想いを一生告げないままだっただろう。
黎を見ると、清々しい表情をしていた。

「ま、そういうわけでちゃんと帰ってくるから。」

「わかった。」

「それじゃあ。」

「…いってらっしゃい。」

黎が踵を返す。
その背中を私たちは、手を振って見送った。

両想いになれたのは嬉しいけど、やっぱり離れるのはさみしい。

そう思ったとき、ふいに黎が足を止めて振り返る。

「凛!」

「なに?」

「連絡するから、4年後、ここに迎えに来い!」

「っ!…わかった!」

私が笑顔で答えると、浩介が黎に無茶振りをする。

「おーい、恋人に愛の言葉忘れてないかー。」

黎の動きが固まる。
浩介はにやにやして待っている。
黎は恨めしそうにこっちを見ながら、大きく息を吸った。

「I love you!!」

真っ赤になりながら流暢な英語でそう叫んだ黎に、周りの人たちは皆注目した。
そして、私も大きく息を吸って。

「Me too!!」

同じように英語で返すと、注目していた周りの人たちから盛大な拍手が沸き起こった。
恥ずかしそうに出発ゲートに向かう黎の後ろ姿を3人で笑い合いながら、見送った。

再会は4年後。
待ってるから。
いってらっしゃい。