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第3話

#2
翌日。

(…ない!)

今日から授業開始だというのに、私は教科書を忘れた。
隣をちらりと見ると、机の上に教科書があった。

(関わりたくないけどぉ…!)

「…ねぇ。」

私が声をかけると、黎は私の方へ視線だけ向けた。

「なに?」

「教科書…見せてください。」

「…忘れたの?」

私はこくりと頷く。

「…いいよ。」

「…いいの?」

やっぱり、根はいい奴かもしれないと思った。

「うん、ただ…。」

「ただ?」

私が首をかしげると、黎はにっこり笑って左手を出した。

「使用料500円ね?」

「…はぁ!?」

前言撤回。
根も悪魔のような奴だった。

「なに?払わないの?それなら、貸さねえけど。」

黎は微笑みながらも、感情をどこかに葬り去ったような、冷酷な眼を向けてくる。
それが妙に圧力を感じた。
…憎たらしいっ!!
私は歯ぎしりしながら、財布から500円を取り出し、黎の左手に置いた。

「どうも。」

黎は500円を制服のポケットにしまうと、教科書を私の机に投げた。

「え?黎は?使わないの?」

「使わない。必要なときだけ見せてくれればいい。」

その時、始業のチャイムが鳴った。

いい奴なのか、悪魔のような奴なのか、よくわからなくなってきた。
その日の昼放課。
京香と弁当を食べていると、オレンジジュースがドンッと乱暴に置かれた。
見上げると、黎ともう1人、見知らぬ男子がいた。

「やるよ。」

「…なにこれ?」

「…お近づきの印?」

「いや、意味わかんないし。」

「ねえ、俺たちも一緒に食っていい?」

見知らぬ男子が笑顔でそう聞いてきた。

「…どちらさま?」

「ああ、俺?聞いてない?黎の中学校からの親友の中野浩介(なかのこうすけ)!」

「はぁ…。」

私は京香と顔を見合わせた。
そして、無言で口をパクパクさせながら相談する。

(凛、どうする?私は別に構わないんだけど。)

(私は嫌だよ!黎と一緒にいても、いいことないし!)

そうこうしてる間に、黎と浩介はイスを持ってきて私たちのそばに座った。
私は立ち上がって、必死に抵抗をする。

「ちょ、まだいいって言ってない!」

「お前に拒否権ないだろ。」

立ち上がった私を見上げる黎の眼は、あの時と同じだった。
私は怯んで、小声になる。

「…どういうことよ。」

「今朝、教科書貸してやっただろ。」

「それはちゃんとあんたの望み通り、使用料払ったじゃんか!」

「そもそも、友達なんだから、拒否しちゃダメだろ?」

黎がにやりと笑う。
私は何も言い返せなくなって、イスに座った。

「友達って…いつのまに?」

「京香が逃げたあとだよ。」

「それは知らないはずだわ。」

私は黎を横目で見て、ため息をこぼし、再び弁当を食べはじめた。
この日から、この4人で過ごすようになった。
5月

「凛。」

「凛。」

「凛ちゃん。」

「うるさいな!なに?」

さっきからずっと名前を呼ばれ続けて、あまりに鬱陶しかったので無視していたが、ひたすら名前を呼び続けるので、仕方なく応えた。
隣の席を見ると、黎が机に伏しながら、こっちを見ていた。

「浩介が俺んちで勉強会したいってうるせえから、凛と神田も来て。」

「なんでよ!」

「え、行こうよ。」

いつのまにかそばに来ていた京香が、会話に入ってきた。

「なんで!?」

「自分ちより、集中できると思うよ。」

「そうだよ、凛ちゃん。」

「あんたは黙ってて。」

黎はケタケタと笑っている。
勉強会はいいのだけれど、黎の家っていうのが納得いかない。
私が悶々と考えている間に話は進んでいたらしく。

「じゃあ、明日、土曜日だから、10時に俺んち集合ね。」

「わかった。」

「え、いや、ちょっと。そもそも黎の家、知らないし。」

「あー、じゃあ、浩介と一緒に来て。」

こうして、勉強会は強行されることになった。



翌日

浩介に案内されたのは、高級そうなマンションだった。
私と京香は唖然として、マンションを見上げる。

「…黎って金持ちなの?」

「うーん、そんなとこかな。両親が海外で共働きらしくて、今は一人暮らしだと。」

「ここに?すごいね。」

エレベーターに乗り、浩介が7階のボタンを押す。
7階に着き、扉が開いた。

「うわぁ…高っ。」

廊下から街が一望できるほどの高さだ。
浩介は迷いなく歩いていき、突き当たりの部屋のインターホンを押す。
しかし、応答はない。

「…留守?」

「いや、いつものこと。」

私が首を傾げていると、突然扉が開いた。

「おわっ。」

ラフな格好をした黎が、だるそうに顔を出す。

「…入れば?」

「いや、まずはインターホンに応えてよ。」

「めんどい。」

黎はさっさと部屋の中に戻っていった。
私たちはお邪魔しますと部屋に入った。
白と黒で統一された、いたってシンプルな部屋で、必要最低限のものしかなかった。

「生活感なさすぎじゃない?」

「食って寝るだけなんだから十分だろ。」

テーブルの上にはすでに黎の教科書や参考書、ノートが広げられていた。
私たちもテーブルの周りに座って、勉強用具を出す。
そして勉強を始めるも、なんか落ち着かない。
向かいに座っている黎を見る。
真剣に勉強している。
普段の授業はよく寝ていたりするのに。
その時、顔を上げた黎と目が合った。

「…なに?」

「え、あ、いや、なんで黎の家なのかなと思って。」

「あれ、凛ちゃん、知らない?」

「え?」

「黎ね、めちゃくちゃ頭いいんだよ。」

「…そうなの?」

「そうだよ。凛、入学式寝てたでしょ?宮久保くん、新入生代表だったんだよ。」

「嘘!?」

「嘘じゃねえよ。」

黎の意外な事実を知った瞬間だった。
この後、結局勉強には集中できなくて、談笑して終わってしまった。



そして10日後。
廊下に成績上位者が張り出された。
1位の人の名前を確認する。

1位 3組34番 宮久保黎

「あいつ、本当に1位じゃん。」

かく言う私はというと。

96位 3組16番 坂本凛

「あ、いい感じ!」

実は勉強会のとき、黎が談笑しつつもわからないところを丁寧に教えてくれたのだ。

「凛、どうだった?」

自分の順位を確認しにいっていた京香が、私のもとへ駆け寄ってきた。

「よかったよ。京香は?」

「まあまあかな。でも、多少なりとも勉強の成果は出てる!」

私は、もう一度1番右端に書かれている、黎の名前を見つめた。

黎の印象が私の中で変わりつつあった。