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第2話

#1
「凛(りん)。」

廊下を歩いていた私を、低い声が呼び止める。
振り返ると、不真面目そうなイケメンが立っていた。
友達の宮久保黎(みやくぼれい)だ。

「なに。」

「手出して。」

私は素直に右手を出すと、黎が眉根を寄せた。

「違う。両手。」

私は訝しみながら、左手も出した。
すると、黎は後ろに回していた手を前にもってきた。
その手には大量のプリントがあった。
後ろに隠していたのだ。
私は慌てて手を引っ込めようとしたが、遅かった。
ドサッと私の両手にプリントが乗せられる。
黎の顔を見ると、にっこりと笑っていた。

「今から職員室行くんだろ?ついでに頼んだ。」

そして、さっさと踵を返す。
私はわなわなと震えながら、廊下に響き渡るくらいに大声で叫んだ。

「黎ーーーーーッ!!」

こんなことは日常茶飯事だが、出会った頃よりはマシになった…かもしれない。

2015年 春

私、坂本凛(さかもとりん)は卯波高校に入学した。
第1志望だった卯波高校に入学できて、私は完全に舞い上がっていた。

「やった!京香(きょうか)、同じクラスだよ!」

「本当!?またよろしくね。」

神田京香(かんだきょうか)とは、小学校からの親友だ。
私は京香とともに、2階にある教室へ向かった。
私の席は窓際の1番後ろだった。

「あー、高校生活ホント楽しみ!」

「春休みからそれしか言ってないじゃん。」

イスに座り、京香とたわいもない話をしながら、窓の方へもたれかかる。
開け放たれた窓から入り込む風が心地よくて、伸びをしたとき、髪につけていたお気に入りのヘアピンが窓の外へ落ちていった。

「ああっ!」

慌てて窓から下を見るが、ヘアピンのような小さなものが見当たるはずもなく、探しにいくことにした。

「どうしたの?」

「ヘアピン落としたから、探しにいってくる。」

「ついてかなくていい?」

「大丈夫。」

とぼとぼと外に出ていくと、なにやら話し声が聞こえてきた。

(あれ?さっきは人なんかいなかったのに。)

校舎の陰に隠れて、こっそりのぞきみる。
男女がもめているようだった。

(…痴話喧嘩?)

女子の方はすごい勢いでまくしたてているが、男子の方は興味なさそうだ。
そして。

「最低っ!!」

女子はパンッと男子の頰にビンタを食らわして、足早にこちらに向かってくる。

(やばっ。)

慌てて身を隠すと、女子は私に気づくことなく、隣を通り過ぎていった。

(新学期早々、強烈なもの見ちゃったなぁ…。)

改めてのぞいてみると、すぐそこまできていた男子と目が合った。

「あっ…。」

思わず声がこぼれてしまう。
無表情だった男子がみるみるうちに不快を露わにする。

「見てんじゃねえよ。」

舌打ちをしながら、通り過ぎていく。
私はその場から、しばらく動くことができなかった。
そして、怒りがふつふつと沸き起こってくる。

(…怖ッ。あんなやつ二度と関わるもんか。)

振り返ると、もう男子の姿は見当たらなかった。


ヘアピンを探し出して、教室に戻った。
教室に入ってきた私に気づいた京香が、軽く手を振った。

「おかえり。見つかった?」

「見つかったけど、すっごい嫌なやつにあった。」

「へ?」

私は自分の席に座る。

「なんか、痴話喧嘩みたいなのしててさ、早くどいてくれないかと思って校舎の陰で待ってたら、男子の方に見てんじゃねえよとか言われて。」

「うわぁ。」

「まあ、見てた私も悪いんだけどさ、あんなとこで痴話喧嘩するのも悪くない?」

その時、ガタッと荒々しい音がした。
隣の席に誰かが乱暴に座った。
横目で見ると、見たことのある男子。

「あっ…。」

再び、思わず声が出てしまった。
血の気が引いていく。
男子は私の方へ顔を向ける。

「…あ。」

しばらくの間の後、にやりと笑う。
私は窓の方へ顔を背けて、必死に手で顔を隠した。
男子は立ち上がって、私の方へゆっくり近づいてくる。

「さっきの女じゃん。奇遇だね。」

「そうですね…。」

「…ごめん、私、飲み物買ってくる。」

「え、ちょ。」

京香はいたたまれなかったのか、顔の前でごめんと軽く手を合わせて、教室を出ていった。

(京香〜〜〜〜っ!)

逃げていく京香の背中を恨めしそうに見ていると、男子に肩を掴まれる。
そして、顔を私の耳元に近づけた。

「お前、余計なこと言うなよ。」

「い、言いません。」

「それと、今日から友達な。」

「はい……え?」

脅されてパシリ決定だと思ったのに、言われた言葉は予想外のものだった。
私はキョトンとして、男子の方を見る。
男子は笑顔を見せた。

「宮久保黎。よろしく。」

(あれ、意外といい人そうじゃない?)

そう思いながら、私も名乗ろうとした時。

「坂本凛。よろし…。」

「黎くーん!」

女子の甲高い声が廊下の方から聞こえてきた。
見ると、大勢のかわいらしい女子が集まっていた。
隣に視線を移すと、黎は手を振っている。
女子はキャーキャー言いながら、手を振り返している。

この時、私は心の底から思った。
こんなやつと絶対関わりたくないと。