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第1話

私は死人同然です。

 私が気にしていたのは、地位と名誉だけではなかった。周りの人間がどれほどを腰を低くしても、杯を交わすほど深い縁になることはなかったし、最悪の場合を想定して深くは関わらなかった。恋愛など、私にはいくつもの壁があって、避けるべき道だ。秘書とも食事には行かないし、友人もいなかった。
「丸めたゴミクズみたいだな、お前は」
「どういう意味?」
「読み取れん感情だらけでボロボロになってる。でも、周りの目には触れる。俺は、お前が嫌いじゃ」
 祖父の口癖はこれだった。お前が嫌い。
 祖父も父も社交的な人だった。パーティーでは親子で囲まれて、楽しそうにしていた。私はその横でジュースを飲んで、静かに過ごしていた。そんな僕を、周りの大人は郵便配達人の子、と嘲笑った。そして、父も僕のことを本当の子だとは思っていなかったようだ。父は母の不貞関係を疑い、毎日罵って、殴っていた。
「お前がこんなやつを産むからだろう!俺の遺伝子など1ミリも入っていない」
 母は自殺した。遺書には『周りからの重圧に耐えられなかった。夫も息子も愛している』と書かれていた。母は最後まで父を守った。情けなかった。
 私は、もっと心を閉ざした。父は私に当たるようになって、母以外に女をたくさん作った。いつも殴ってくる拳からは、毎日違う香水の香りがして、酒が回っていた。そして、ある日のこと。父は帰ってこなくなった。きっとどこかにいるのだろう、と思っていた。ある日、警察が家に来た。父の名を出され、何かに巻き込まれたのかと尋ねると、父の死を知った。取り調べをされたが、何も答えられずに終わってしまった。犯人は父の女だったらしい。父が新しい妻を探していて、候補の女を順に訪ねていた。父は一人の女性に的を搾ったそうで、これからはその女性に会いに行くと犯人に伝え、犯人を怒らせた。
「だって、あの人は有名な企業の次期社長でしょ?お金をいっぱい持ってて、私を妻候補にあげてくれたのよ。なのに、捨てるだなんて。酷いわ。あまりにも酷すぎると思わない?」
 彼女からはあまり嗅いだことの無い香水の香りがした。父は彼女にそこまで好意を感じなかったのかもしれない。
「ねえ、息子ちゃん。私の心を弄んで、こんな目に遭わせといてただじゃおかないわよ。慰謝料ちょうだい?ね?」
 狂気さえ感じた。この日から私は女性に対して苦手意識を覚えていた。
 祖父が社長を辞めたのは、それからちょうど一年後だった。祖父は私に社長職を譲った。驚いた。私はその頃、大学に通っていて、跡継ぎは無理だろうと言われていたからだ。社交的な祖父と父と違って、彼は社長ではなく、事務で結構だ。とまで、囁かれていた。祖父に理由を聞いても、
「潰したければ潰せばいい。お前がこの会社をどうしたいのか、試したいだけだ。借金だらけにしても構わん。どうせお前はゴミだからな」
 この日から、私は何も感じなくなった。