ある日、
黒須くんは
風邪で
学校をお休みしました。
そして
私は、時任さんの代わりに
黒須くんの様子を見に行くことになった。
黒須くんのお家に来るのは、
今回で2度目。
彼のお父さんは、ちょっと怖かったから……
私は、恐る恐るゆっくりとチャイムを押した
黒須家の家政婦のミタニさんは、
落ち着く雰囲気の方で、
まるで自分のおばあちゃんのよう
門が自動で開き、
玄関まで進むと
ミタニさんが出迎えてくれた
ミタニさんが
黒須くんの部屋をノックしたが返事がなかった
ミタニさんは、ドアを開けた
私が部屋の中に入った瞬間、
ミタニさんはそう言ってドアを閉めた
ど、どうしよう…
ベッドの方を見やると
黒須くんがスヤスヤと眠っていた
私は、静かに彼のベッドに近づき
ベッドの横に置いてある椅子に腰掛けた
呼吸は少し苦しそうで
顔が赤かったが、
相変わらず
整った顔立ちである
眠っている彼に、
小声で私は呟く
面と向かって言えないから……
今
言ってしまいたい
び、びび、びっくりした…!?
え、今なんて
え…
寝てると思ったのに……
黒須くんの顔は、真っ赤だった
耳まで赤く染まっている
いつもは、優しい口調なのに
なんかちょっと尖った感じ……
前から薄々感じていたけど、
彼は案外ワルな要素がある……と
私は思う
箱入り息子らしい彼は
外面がいいのだろう
さすが、王子です……。
はぐらかしているのか…
熱でわからなくなってしまっているのか…
でも……
熱でのぼせていたようだ……
黒須くんは、何かを思い出したかのようにベッドからガバっと上体を起こすと、自分の口を両手で塞いだ
心臓の鼓動が高鳴る
黒須くんは、おでこに手をあてて上を向いた
腕の筋がくっきりとしている
黒須くんは、暫く上を見上げたまま固まっていたが、今度は下を向いた
髪が顔にかかって表情は見えない
確かに……
黒須くんの
今までのことを考えれば
本人の気持ちになれば
気づいてあげられたのに……
長い、
長い
沈黙……
聞くだけでとろけそうな
優しい音色の小さな声
そっと手を伸ばした彼は、
私の顔をクイッと上げて
自分の目を見せた
長いまつ毛
今にも吸い込まれそうな
茶色の大きな瞳
その真っ直ぐに向けられる
視線の先には
私しかいない
お互いの鼓動が共鳴するかのように高鳴った
そして
黒須くんは、
そっと
ピンクに潤った熱ぽい唇を開くと
と呟いた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。