第8話

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2021/02/21 07:40
あれから半年がたった。
あれから、というのは私と徹くんが再会して彼女・彼氏の関係に戻ったあの日から。

今日はアルゼンチン親善試合決勝戦。
試合前、徹くんのいるチームCAサンフアンの控え室前に来ていた。
今朝、徹くんが直接応援に来てよ、あなたはうちの勝利の女神なんだから!
とかわけのわからない冗談を言っていたのだけど、
会場に到着して仕事の準備をしていたら、徹くんからLINEがきてメッセージを確認すると、みんな女神のお言葉を待ってるよ♪と、待ってるね!と可愛らしい猫のスタンプが押されていた。

「えー本気、だったの?」
仕方がないか、と席を立ち足取り重く控え室へと向かった。

















わたしは半年前、日本の事務所を辞めアメリカの通訳者事務所に所属して、アルゼンチン支社でお世話になることにした。そしてすぐに徹くんと同棲を始めた。7年分を埋め合わせるように毎日たくさんの話をした。隣で笑い合いながら。



「それでね、その事務所の同期の風間くんがね、」
ちょうど日本の通訳者事務所での話をしていたら、徹くんがムスッとした表情に変わっていてどうしたの?と聞いてみた。

「その風間ってやつの話で、あなたが楽しそうにしてるから。」
「だって風間くん面白い人だし。」
「そういうことじゃなくて」

と言いながら徹くんは私の背後に座ってぎゅ、と抱きしめてきた。
「あなたはモテるからなあ、」
俺が高校時代どれだけ目を光らせてたか、とかぶつぶつ言い始めた。
「と、徹くん?」
「あああ!もうすっっごい好き!めちゃくちゃ好き!」
ついに徹くんは壊れてしまった。
そして

今俺は幸せだよ、
と言って頬にキスをしてきた。

「私も、徹くんのそばに居られて幸せです」
そう返事して私もお返しのキスをした。











そんな回想に浸っていたら
「トオルのスイートハート!俺たちの女神がお越しになったぞ!!」
と背後から腕が伸びて控え室のドアノブを回した。開けられたドアの向こうから一斉に視線がこちらを向いた。

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