あれから半年がたった。
あれから、というのは私と徹くんが再会して彼女・彼氏の関係に戻ったあの日から。
今日はアルゼンチン親善試合決勝戦。
試合前、徹くんのいるチームCAサンフアンの控え室前に来ていた。
今朝、徹くんが直接応援に来てよ、あなたはうちの勝利の女神なんだから!
とかわけのわからない冗談を言っていたのだけど、
会場に到着して仕事の準備をしていたら、徹くんからLINEがきてメッセージを確認すると、みんな女神のお言葉を待ってるよ♪と、待ってるね!と可愛らしい猫のスタンプが押されていた。
「えー本気、だったの?」
仕方がないか、と席を立ち足取り重く控え室へと向かった。
わたしは半年前、日本の事務所を辞めアメリカの通訳者事務所に所属して、アルゼンチン支社でお世話になることにした。そしてすぐに徹くんと同棲を始めた。7年分を埋め合わせるように毎日たくさんの話をした。隣で笑い合いながら。
「それでね、その事務所の同期の風間くんがね、」
ちょうど日本の通訳者事務所での話をしていたら、徹くんがムスッとした表情に変わっていてどうしたの?と聞いてみた。
「その風間ってやつの話で、あなたが楽しそうにしてるから。」
「だって風間くん面白い人だし。」
「そういうことじゃなくて」
と言いながら徹くんは私の背後に座ってぎゅ、と抱きしめてきた。
「あなたはモテるからなあ、」
俺が高校時代どれだけ目を光らせてたか、とかぶつぶつ言い始めた。
「と、徹くん?」
「あああ!もうすっっごい好き!めちゃくちゃ好き!」
ついに徹くんは壊れてしまった。
そして
今俺は幸せだよ、
と言って頬にキスをしてきた。
「私も、徹くんのそばに居られて幸せです」
そう返事して私もお返しのキスをした。
そんな回想に浸っていたら
「トオルのスイートハート!俺たちの女神がお越しになったぞ!!」
と背後から腕が伸びて控え室のドアノブを回した。開けられたドアの向こうから一斉に視線がこちらを向いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。