第10話

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2021/02/28 06:50
今日のCAサンフアンは“最強”、その言葉がぴったりだった。一人ひとりのプレイが光っている。
試合はストレートで勝ち、優勝した。そしてそんなチームのインタビューが始まろうとしていた時、通訳ブースに大会スタッフが来て私を呼んだ。




「あなたさんですよね、こちらに来てもらえませんか?」
「あ、でも私今から通訳の仕事がまだ、」

急かすようにして私は椅子から剥がされ、わけも分からずに付いて行った。










付いて行った少し先にはインタビューのステージが見える。CAサンフアンのキャプテンがインタビューの真っ最中で、私は大会スタッフを睨むようにして視線を送ると、ウインクされ少し苛立ってしまった。
キャプテンのインタビューが終わると、次は徹くんがキャプテンとハイタッチを交わして入れ替わり、ステージに上がった。


その時、徹くんと目が合い、徹くんはニコリと微笑むと、インタビュアーの質問に応えていった。
今日のチームはここ最近の中で特にベストコンディションだった。
チームみんながバレーボールを楽しんでいた、俺も楽しかった
など終始笑顔の徹くん。私も心のなかで優勝、おめでとう!と呟く。
インタビュアーが、

「ありがとうございました!改めてとCAサンフアン、優勝おめでとうございます!」

と声を張り上げた後、持っていたマイクをスタンドに立ててその場を後にした。私はどうしたらいいんだとキョロキョロ周りを見回すと、CAサンフアンの選手が私の後ろにぞくぞくと集まってきた。
振り返ると、私と曲がり角で交通事故にあった選手がいて、またもやウインクされる。みんなウインクが上手だな、とかどうでもいいことを考えていると、


「あーあー」
スピーカーから徹くんの声が聞こえて、ステージに視線を戻すと徹くんはまだそこに居て、マイクスタンドの高さを調節していた。




シーンと会場内が静まり返る。誰も居ないんじゃないかって位に。
徹くんの声がだけが響き渡った。

「緊張するなあ」
と間の抜けた声に観客席から笑い声。チームメイトも笑っている。





「えーと、まずは改めて、応援してくれてる全てのバレーボールファンに感謝を」
会場が拍手の音で溢れる。しばらくして静けさが戻ってくると徹くんは





「今日は手紙を、書いてきました。みんなにそれを聞いてほしくて時間を割いてもらいました」
と、言った。




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