第5話

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2019/07/12 08:21
それから、俺は車を家の目の前で降りるようになった。






花屋だって、目にする機会が無くなった。











_____1ヶ月が経った頃、
偶然その花屋の前を通った。


すると、花屋から出てきた店員さんが声をかけてきた。




「具合は大丈夫ですか…?」


なんて言い出すから、何の事か全く分からない。







ようやく事態を飲み込めた時には、
彼女に電話をかけていた。



「…全部演技か。」


「え?」


「俺より、演技の才能あるよ。保証するから、女優になれ。」


「何言ってんの?」




久々に聞いた君の笑い声。




「今、どこ?」

「絶対教えない」

「なんで」

「教えたら来るじゃん」

「行っちゃダメなのかよ。」

「絶対ダメ」



君は俺を気遣ってか、病院の名前すら教えてくれない。


会える術は無いから…



メールと電話をこれでもかと繰り返した。





君は1人で余命宣告を受け、
1人で悩んで、
1人で泣いて、

俺と別れるための演技を、ひたすら続けて、


今、ベッドの上で、1人でいる。





そんな密室から、連れ出せない。
君1人助けられない俺は、

世の中が思うような、かっこいいアイドルでも、王子様でもない。
失格だ。







携帯が鳴る。


「会いたい」の4文字。




頼むから、どこに居るのかぐらい、教えてくれよ。




「○✕総合病院302号室」


君の精一杯の、SOSだった。







「…たくみ

「久しぶりな感じするけど、2ヶ月も経ってないんだよな…」

「2ヶ月、長いよ。」

「泣くなって」

「泣いてないもん」



顔色も悪くなって、少し痩せた君。
でも俺が大好きな君に間違いはない。



「どうする?結婚する?」

「はぁ〜?」

「全部捨てて…さ…。」

「ファンも?メンバーも?家族も?」

「うん」


「…それは嫌だなぁ〜。私、別に結婚しなくていいし。」

「可愛くないな」

「そりゃあどうも、すいませんでした〜」



笑ってるけど、
俺は結構本気だったよ?


まぁ、そんなこと、望むわけがないか。











それから、俺は時間を見つけては病室に通った。

変わらない、君と。


でも君はどんどん細く、小さく、なっていく。





ふとした時に流れる涙は隠して。
君の前では精一杯、笑顔でいる。

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