僕が、55歳になった時、父さんが死んだ。
病気だった。
葬式の日、みんな泣いていた。
おそ松兄さんたちも、トド松も、母さんも、トト子ちゃんも、チビ太も。
でも、僕は泣かなかった。
その日、兄さんたちに怒られた。
『お前は、父さんの死が悲しくないのか』って。
僕はなにも言わず俯いたままだった。
僕だって泣きたかった。
たった1人の父さんが死んだんだ。声を上げて泣きたかった。
でも、できないんだ。
歳を取るたびに協力になる涙。
55歳になった今なら目ごと溶けるだろう。
今死んだら母さんに追い討ちをかけるのと一緒。
兄さんたちは僕の病気を知らないから、そんな厳しい言葉を言うんだろう。
それは、しょうがないことだ。
64歳の時、母さんが死んだ。
老衰だった。
家族で2回目の葬式。
みんな泣いてた。
顔馴染みの人たち全員が。
勿論、兄さんたちも泣いてた。
でも、僕は泣けなかった。
そして、また、兄さんたちに怒られた。
『お前は泣かないのか、母さんが死んでも。』
『心がないんじゃないか。』
その言葉は僕の心に刺さって、苦しかった。
でも、僕はまたなにも言わず下を向いて黙っていた。
そして、僕にも死の時がきた。
布団に寝転がって、みんなが僕の方を見ている。
僕が兄弟の中で一番最初に死ぬ。
病気だったから?
まあ、なんでもいい。
脈が下がり、力が入らなくなる。
僕は、後悔した。
もっと、泣いとけばよかった。
今はもう、泣いてもいいのに泣き方を忘れてしまって涙が出ない。
こうして、僕の長くて苦しい人生が終わった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。