第9話

救えて良かった
10
2020/05/24 12:06
「ッ…ウ…」
意識が朦朧とする、だんだんと辺りがぼやけていく。
少し先に蒼太くんらしき人物が倒れている。
「ソ…タ…クン」
あ、真っ暗だ。声だけが聞こえる。
見えない分いつもより声が鮮明に聞こえる。
「誰かー!救急車だ!」
ザワザワ
「なにぃ?飛び出しかしら、」
ザワザワ
ピーポーピーポー
「はい、どいてくださーい!」
「聞こえますかー?」
聞こえてるんだけどな、
もう、    そこで私は意識を手放した。




――――――――――――――――
ピッピッピッピッピッピッ
「…ン、」
薄ら、目を開けると
「…!、おはよう」
「…ッお、おはようぅ、」
まだ目が眩むが、
彼は無事なようだ。
「……」
「……」
やっと焦点が合ってきた。
彼へ目線を向けると、頭に少しの包帯と身体の方も大きな怪我は見当たらない。
「……がとう、」
「え、」
「ありがとうッ」
「…ッ、ぅ、ふぇうぅ」
「!どうしたの?!先生呼ぶ?!」
「…チガッッフゥ」
生きてる。彼がいる、今この瞬間を生きている。
とてつもなく嬉しく涙が溢れた。
「俺さ、ずっと死にたいって思ってたんだ、」
"どうしようもないくらい"と、彼は遠くを見つめてふふっと笑った。
「でも、君の声が聞こえた時に、なんでか、」
「……ッ、」
「凄く生きたい、死にたくないって思ったんだ」
「だから、ほんとにありがとうッ」
「ァ、…」
言葉が詰まって出てこない。
ただ言いたいのはこれだけ。
「私、貴方を救えて良かった」
「!、うん」
本当に救えて良かった。
「!清水さん!身体が!どうして、」
「私、ほんとは……」
消えていく身体と共に発した言葉は途中で途切れてしまった。

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