第6話

ー絶たれた人生。ー
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2021/06/01 11:59
「……俺、殺されたんだ。」

聡の言葉に皆が目を見開いた。

「だ、誰に?」

あやめは恐る恐る聞いた。

「……実は、母さんにも湊にも言ってなかったけど俺…いじめられてた。クラスの奴に。今日も朝、学校の屋上に呼び出されて金取られて、暴力も振るわれてさ。今日は一段と酷かったからって逃げ出したんだよ。で、階段降りようとした時に後ろから押されて。打ちどころが悪かったのかそのまま…。」


聡が話終えると湊が血相を変えた。

「なんだよ、それ!なんで黙ってたんだよ!このままでいいのか?」

「っ!いいわけないだろっ!でも、母さんにも湊にも心配をかけたくなかったんだ!」
それから聡は小さく ごめん。と言った。

「いじめてきた奴に最後に文句ぐらい言いたいな…」

「じゃあ、行こう。ほら、学校行くぞ!」
湊は聡の腕を引っ張り歩き出した。



「おー!すごい!学校だぁー!本物だ!って教室行かないとね。何組なの?」

「3ー2。」

湊は聡の代わりに答えた。
怒っているのか声のトーンが低い。

「大丈夫かな?弥与唯…」
あやめは心配そうに怖々と聞いてきた。

「多分、大丈夫だと思うよ。親友だもん。あの二人。」




「アイツだよ。飯田 弘隆。」

教室の中を見て聡は指を指す。
教室の中では噂話が舞っていた。

「おい、北嶋って何で死んだの?」
「飯田が殺したらしいよ。」
「いじめてるだけじゃ飽き足らず殺したの?」
「サイコパスじゃん。」
「うわぁそんなやつと同じクラスってこえーわ!」

飯田は噂話が教室内で飛び交っていても微動だにしなかった。

「ってかあいつ、母親が出てったんだろ?ストレスでかな?」
「だからってありえないだろ?」


「あいつん家にいく。」
聡はポツリと言った。
「行って何すんだよ?」
「そうだよ!時間の無駄じゃない?」
湊もあやめも聡の提案を否定した。

「行く。未練つくりたくない。それに何か分かるかもしれないし。」

「まあ、いいけど…。」



放課後になって4人で飯田の後をつけた。

飯田が家の中に入った後、湊、あやめ、聡、私の順に中に入っていった。


家の中はお世辞にも綺麗とは言えなかった。
むしろ荒れていた。生ゴミが入った袋はあちこちに山ずみになっているし、洗い物も溜まっていた。
床には皿の破片があり壁には無数の壁穴があった。

誰かが拳を打ちつけて開けた穴だろう。


「ごめんなさい、ごめんなさい…。」
奥の部屋から声がした。

「飯田の声だ。行ってみよう。」
部屋に入るとそこだけの空間は小綺麗に整理整頓してあった。

飯田は縮こまりながらずっと謝罪の言葉を口にしていた。

「いつもこんなんじゃないのにな。」
聡はボソッと言った。

ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ
二回から誰かが降りてくる音がした。

中年の男の人だ。
体型が大きく背も高い。

「弘隆。金は?今日の分まだだろ!」
そう言うと飯田のお父さんらしき人は飯田の胸ぐらを掴んだ。

「ほらっ!金だよ、よこせ!酒も薬も買えないだろーがよ!」

掴んでいた手を急に離し、弘隆は投げ飛ばされた。

飯田は震える手でポケットからクシャクシャになった7000円をポケットから取り出した。

「あ?こんなんじゃ足りねえよ!」
お父さんは弘隆を殴り、殴るのに飽きたら蹴り倒しを繰り返した。

数分間同じ事を繰り返したあとつまらなくなったのかお父さんは家から出ていった。


シンと静まり返った部屋には飯田の鼻をすする音だけが響いていた。


「さ、聡。ごめん。っごめんなさい。俺のせいで。俺が無理に引き留めようとしたから…手がぶつかって……背中を押しちまった。俺が殺した。……俺も殺される。もう無理だ。死にたい…。…いや、死ねないな。死んじゃダメだよな。お前を殺しておいて楽な道に逃げようとして。聡の分も………生きないと……。」

「……飯田。暴力振るわれたんだな。お父さんを少しでも怒らせないように金を渡して。飯田も飯田で必死だったんだな。」

「いいのかよ。許すのかよ!」
湊が少し苛立ったように言った。

「飯田のしたことは故意じゃなくてあくまで事故だよ。けどだからって許すことは出来ない………。でも、自分がしたこと自覚してるし、俺の分も生きないといけないって分かったみたいだし。」

「そんなもんかな?聡は甘いよ!?……でも、聡が納得したならいいよ。それで。」

「外、出よっか」
聡に続き、皆で家を出た。


「飯田、大丈夫かな?いつかお父さんに……
「あの人誰だろう。」
あやめの視線の先には綺麗な格好をした女の人がいた。

女の人は飯田の家のベルを鳴らした。

数十秒後飯田が出てきた。

「か、母さん!どこにいたんだよ!なんで置いてったんだよ!」
「ごめん。ごめんなさい。弘隆。それよりこの怪我、お父さんに?」

飯田は口を噤んだ。

「お母さんね、弘隆は知らなかったと思うけどお父さんに暴力振るわれてたの。」

飯田はその言葉を聞くと顔を上げた。

「母さんも?だから、逃げたの?」
「うん。色々準備してて遅れたの。ごめんね。お母さん、お父さんと離婚するから。お母さんについてきてくれる?」

「うん。母さんについてく。」

飯田の目には涙が浮かんでいた。

「飯田も大丈夫そうだね。聡がこんなことになる前に対処できてればよかったのに。」

「たしかにあやめの言う通りだけど俺はもう、未練も何も残ってないかから。じゃあ、弥与唯。最後は君の番だ。」

聡の言葉に3人が私を見る。

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