第4話

ー思い出のブレスレット。ー
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2021/03/16 11:30
「私ね、病気だったの。心臓の。
もう小さい頃からこの病院に入院しててさ。何回も手術して。
でも一向によくなんなくて。
今日起きたら、久々に皆揃っててさ。お父さん、お母さん、お兄ちゃんの怜に妹の真夜華まで。
めちゃくちゃ嬉しくてさ!抱きしめようとしたら、…出来なかった。触れれなかった。…それに皆泣いてた。
お兄ちゃんは泣きながら横たわってる私の頭を何度も何度も優しく撫でてくれて、真夜華はお姉ちゃん、お姉ちゃん!起きて!って。揺すってた。
普段泣かないお父さんも泣いてたな。悲しいはずだったのに嬉しかったよ。
皆に見届けられて。本当に今までにないくらい嬉しかった。」


「お疲れ様だったね。今までよく頑張った。」

湊がそう言うとあやめはまた涙ぐんだ。

「私、学校行けなかったから友達いないんだよね。良かったら最初で最後の友達になってくれる?」


「「「もちろん!」」」

3人の声が綺麗にハモって皆で笑った。


「真夜華ね、いっつもお見舞いの時にお花摘んできてくれて、お手紙書いてきたよ!ってめちゃくちゃ一生懸命にさ。
もう無いんだな…。
お兄ちゃんは大学の空き時間とかに来てくれて、私の好きなマンガ本とか買ってきてくれて。最後まで読みたかったな。
……お父さんは見かけによらず恥ずかしがり屋でいつも私が寝てる時にそっと来てくれてたな。
起きてたけど。
ちょっとした些細な幸せも無くなるんだな。」


「あやめは家族が大好きなんだね!」

「うん!大好き。自慢の家族だよ!」

「なあ、あやめは行きたいとこある?一応俺たちは行ったけど。」

「…久々に家に帰りたいな。」

「じゃあ、行くか!」


病院から約30分。
玄関の表札には加藤と書いてあった。

「うわぁー懐かしいな。皆も入って入って!」



リビングに入るとあやめの両親らしき人とお兄さんと子供がいた。


「なんで私、元気な体で産ませてあげれなかったんだろう」

「母さんそんなこと……」

「だってそうでしょ!私が元気な子に産んであげられていたらあやめは苦しい思いをしなかった。私のせいで……。」


不意に思い立ったようにあやめのお母さんは台所に向かって駆けだした。

手に包丁を握りしめていた。

あとから追いかけたお父さんとお兄さんが必死で包丁を手から離そうと試みる。

「母さん、やめなさい!」

「離して!あやめのところに行かなきゃ!
あやめきっと寂しがってる。お母さん行かなきゃ!きっと一人で泣いてるわ!」


その言葉を聞きあやめは涙を流した。

「母さん、やめてよ!
あやめはそんなこと望んでないよ!
今の母さん見て悲しんでるよ。
あやめを悲しませないでくれよ!」


ただならぬ空気を感じた真夜華ちゃんは大きな声で泣き出した。

あやめは泣きながら真夜華ちゃんを抱きしめた。

実際触れてはいないが真夜華ちゃんは静かになった。

「あやめお姉ちゃん?いるの?」


その瞬間、あやめのお母さんは包丁を床に落とした。

すかさず包丁を拾うお父さんをよそにお母さんは
真夜華ちゃんのそばに駆け寄った。

「真夜華!あやめがどうしたの?」


「今ね。お姉ちゃんの匂いがした。
お日様の匂い。
それで、真夜華が泣いたらなんか温かくなったの。いつも帰る時ギュッでしてくれるみたいに。」


あやめは気づいてくれて嬉しかったのか微笑んでいた。


「お母さん。私は大丈夫だから。産んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう。」


あやめはそう言い壁に飾ってあるブレスレットを触ろうとしていた。


「皆!お願い!これ落としたいの、手伝って!」

私たちは、あやめの傍に駆け寄り一緒に試みる。


何度も
何度も

何度も何度もブレスレットは手をすり抜けてしまう。

諦めかけていた。



ーカシャン


あやめのお父さんもお母さんも、お兄さんも真夜華ちゃんも一斉に振り返った。


視線の先には、黄色とオレンジがミックスささったビーズのブレスレット。


「あれ、真夜華がお姉ちゃんにもらったやつ。」



何ヶ月も前。

看護婦さんが暇そうに窓の外を眺めているあやめを気にかけて色んな色のビーズが入った入れ物とてぐすを持ってきてくれた。

「妹さんにでも作ってあげたらきっと喜ぶわよ!」

その言葉を聞きあやめはお礼を言い、早速作業に取り掛かった。

何色にしようかな。

ふと前に、真夜華に言われたのを思い出した。

"お姉ちゃんの匂いお日様のいい匂い!"

よし!黄色とオレンジにしよ!
喜ぶかな真夜華……。



「あやめが見てるんだよ。母さんにはそんなことしてほしくないって。いつでも笑ってて欲しいって。」

お父さんの言葉でその場にいた皆が涙を流した。



「お母さん、私はもう1人じゃないよ。友達がいるもん。」

私たち3人を見てあやめはそう言った。



「もう大丈夫。行こっか!」

その時のあやめはとてもきらきらして見えた。

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