風早優奈side
今年最後の書店の開店日に、私の本が陳列された。
小説売り場の、新刊のコーナーに。
有名なイラストレーターの人に描いてもらった表紙は、あまりにも美しかった。
それを言葉にしろと言われたら、無理だと答えるほどに。
思わず写真を撮ってしまった。
タイトルと私のペンネームのフォントも素敵。
あとがきにも書いたけど、編集者さんやイラストレーターさんにも感謝だ。
中高生らしき人たちが、私の本を手に取ってレジに持っていくのが、とにかく嬉しかった。
表紙の右下には、フルートを吹きながら涙を流すヒロイン......栞奈。私の要望通り、白い、まるで天使のようなワンピースを着せてくれた。
栞奈と対になるように、横を向いて涙を流すのは、主人公の拓哉。全体的に儚げなイラストだった。
その聞き覚えのある声に振り向くと、私服姿の夏紀さんが立っていた。
バリキャリ、というイメージしか無かったのだが、夏紀さんが着ていたのは、黒のオーバーサイズのパーカーにジーパン。ラフな印象が大きい。
というより、私がそのギャップに追い付いていない。
彼女は少女のような笑顔を浮かべた。
まさか、こんな近くに住んでるだなんて。
てっきり神奈川の辺りかと思ったのに。
私がそんなことを暴露すると、夏紀さんはおかしそうに笑った。
ギャップがすごすぎる。
こんなにギャップがある人ってこの世に存在したんだ。
逆に怖い。
じゃあまたオフィスで、と夏紀さんは用事があるのか去っていった。