第55話

第54話
69
2024/05/31 08:00
風早優奈side
今年最後の書店の開店日に、私の本が陳列された。
小説売り場の、新刊のコーナーに。
有名なイラストレーターの人に描いてもらった表紙は、あまりにも美しかった。
それを言葉にしろと言われたら、無理だと答えるほどに。
思わず写真を撮ってしまった。
タイトルと私のペンネームのフォントも素敵。
あとがきにも書いたけど、編集者さんやイラストレーターさんにも感謝だ。
中高生らしき人たちが、私の本を手に取ってレジに持っていくのが、とにかく嬉しかった。
表紙の右下には、フルートを吹きながら涙を流すヒロイン......栞奈。私の要望通り、白い、まるで天使のようなワンピースを着せてくれた。
栞奈と対になるように、横を向いて涙を流すのは、主人公の拓哉たくや。全体的に儚げなイラストだった。
夏紀
夏紀
あら、やっぱりお越しになってたんですね
その聞き覚えのある声に振り向くと、私服姿の夏紀さんが立っていた。
バリキャリ、というイメージしか無かったのだが、夏紀さんが着ていたのは、黒のオーバーサイズのパーカーにジーパン。ラフな印象が大きい。
というより、私がそのギャップに追い付いていない。
優奈
優奈
はい。自分の作品が店頭に並ぶのって、なんか不思議な気持ちです。夏紀さん、ありがとうございました
夏紀
夏紀
いえいえ!刹那先生は、ここからですよ!
彼女は少女のような笑顔を浮かべた。
夏紀
夏紀
私も、住んでるのこの辺なんですよ。刹那先生もですか?
優奈
優奈
オフィス以外でその名前で呼ばないでください......。恥ずかしいし、単純に身バレします......
夏紀
夏紀
だって、本名知らないんですもの
優奈
優奈
風早優奈っていう本名なので、是非優奈ちゃんとでも
夏紀
夏紀
あら。じゃあ、そう呼ばせてもらいます
優奈
優奈
......私も、さいたまスーパーアリーナの近くなんですよ。夏紀さんは?
夏紀
夏紀
私は、川口市です
優奈
優奈
え、じゃあすぐじゃないですか
まさか、こんな近くに住んでるだなんて。
てっきり神奈川の辺りかと思ったのに。
夏紀
夏紀
じゃあ、遊びに行っちゃおうかな~
優奈
優奈
私の家あんま片付いてないですよ。原稿だらけなんで。ファイルに入れてはいますけど
私がそんなことを暴露すると、夏紀さんはおかしそうに笑った。
夏紀
夏紀
優奈さんらしいですね~
ギャップがすごすぎる。
こんなにギャップがある人ってこの世に存在したんだ。
逆に怖い。
じゃあまたオフィスで、と夏紀さんは用事があるのか去っていった。

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