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第10話

?話 物語の裏側 彼の心の内
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2018/12/03 10:10
 「君、大丈夫?」

1人、夜の海に座り込んで泣いている少女に声をかける。少女は急いで涙を拭い、こちらを訝しんでいるように顔をあげた。

最初に、どう声をかけようか、迷った。僕のせいで、猜疑心に苛まれて苦しんでいる彼女に、何をしてあげれるのか。

十数年前、もういつかははっきりと覚えてないが、僕は死んだ。その数年後、追うようにして彼女ーー僕の娘の夏ーーは海で溺れた。

本当なら、そこで彼女も死ぬ運命にあった。

だけど、僕は自分の勝手で、彼女に命を、“ 能力”という形で、命を分け与えた。

そのせいで、何年も苦しめるようなことをさせてしまった。

償いでもないけど、せめて、僕の命が馴染んで“ 能力”が薄くなってきて無くなりかけている今、その重荷を、軽くしてあげられたらと思い、父ではなく、幽霊として話そう。

それから何日間か、自分の世界に閉じこもってしまった彼女と話し続けた。

僕は、彼女を救うことが出来たのだろうか。

時間がギリギリで、何も言わずに去った僕を、彼女は、怒るだろうか。

少なくとも、彼女の“ 能力”はなくなっていると思う。

お母さんには、悪いことをしたなぁ。

いつもこまめに花を替えてくれて、夏をここまで育てあげてくれたのに、お礼のひとつも、謝罪のひとつもできなかった。

それでも、黙って消えていく僕を、許して欲しい。

来世でなんて、キザなことは言わないけど、夏になって、海を見たら、僕を思い出して欲しいな。

また、君と、夏に会えたらな。


意識が、消える。

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