第25話

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2022/04/22 11:42




「ごめんなさい、時間とか場所僕の方に合わせてもらって。」



「全然っ…こちらこそ先日はすみませんでした、あの、ご本人だとは思わずにベラベラと…」



あの日の失態を思い出すだけで消えたくなるほど恥ずかしい。



本人を目の前にして和牛について語るなんて、、、



「いや、でもありがたかったです。」



マスクしてるから目の部分しかわからないけど、笑ってくれてるのは認識できる。



「あ、ほんでこれ。」



川西さんが思い出したかのようにテーブルの上に置いたのは、私がいつも使ってる目薬だった。


ないなぁと思ってたら、あの時落としたんだ。



「すみません、落とし物までしちゃって…お忙しいのにわざわざありがとうございます。」



目薬なんて捨ててくれていいのに律儀だなぁ。



「じゃあ俺はこれで、」



「あっ、待ってください!」



何か注文するわけでもなく、すぐに立ち去ろうとする川西さんを思わず呼び止めた。



「え?」



「このあと予定ありますか、?」



「あー…」



「あのっ、もしよかったらお礼にコーヒーだけでも!と思って…」



こんなチャンスはもう一生巡ってこない。


だから、断られるだろうけど、人生でいちばん勇気を出した。



「…ここやと劇場近いしあれなんで、」



「そうですよね、、、」



「どっか飲みに行きますか。」



「え、?」



「お酒飲めます?」



なにこの展開。



「飲めますけど…。…いや、、、え?」



「知り合いに聞いた店あるんでそこでもいいですか?」



そう言いながらもうすでに店を出ようとしてる川西さん。



「こっからタクシーで5分くらいやと思うんで。」



「は、はい…っ。」



呆気に取られたままの私は、急いで鞄と上着を持ってその背中を追いかけた。




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