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文香が文通部に入部して、二ヶ月が経った。
風が初夏の香りを運び、部室の開いた窓から入ってきて、文香の頬と髪をくすぐる。
あれから、藤田は千歌のコンクールを前にして忙しくなってきたようで、文通部にはあまり顔を出さなくなった。
文香が入部したので、人手は足りていると思っているのだろう。
部室の中には、膨大な量の手紙をしまうための引き出しや棚が、壁に沿って多く置かれている。
創部からそんなに年月が経っていないので、今はまだ余裕があるが、いつかここが手紙で埋め尽くされるのかと思うと、文香はわくわくした。
送り先のお年寄りの手紙を見つけ、前回のやり取りを思い出しながら椅子に戻り、万年筆を滑らせていく。
道具を使って修正ができる鉛筆やペンと比べて、万年筆は取り返しがつかない。
便箋がもったいないので、以前は要らない紙に下書きをしていたものだ。
ようやく、間違えないように集中しながら書けるようになってきていたというのに、今でもたまにこうなる。
文香が便箋に対して謝っていると、背後からくすくすという笑い声が聞こえてきた。
声の主は、一人しかいない。
文香は飛び上がった。
文香が顔を真っ赤にして振り返ると、竹間はたいそう楽しそうににこにこしながら、文香の斜め向かいに座った。
この二ヶ月、文香は竹間と一緒に過ごすうちに、彼のちょっと変わった面を見てきた。
突然、「風船! 風船を飛ばそう!」と言って立ち上がり、風船と花の種を買ってきたことがあった。
風船に花の種と手紙をくくりつけ、二人で学校近くの高台から飛ばしたのだ。
その後、風船を受け取ってくれた数人からお礼の手紙がやって来たのが、その他に数件の苦情も学校に来てしまった。
学校側から注意を受け、もう風船を飛ばせないことを知った竹間は、ひどく落ち込んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。