「大きくなったらゆうごくんと結婚する!」
保育園の頃、そんな事を毎日言ってたのを、彼女は覚えてるのかな。
小学校入学の時も、
「ゆうごくんいっしょのくみがいいね!」
結局同じクラスにはならなかった。
でも、毎日のように遊んでいた。
小学校卒業の夜、俺は彼女をある場所へ呼び出した。
誰もいない小さな展望台。
目の前にはとても綺麗な夜景が広がっている。
「わぁー!綺麗」
彼女はとてもはしゃいでた。
『これからずっとここ来よ。
ここは二人の秘密の場所ね』
「うん!優吾ありがとう」
呼び方も体も少し成長したが、俺の気持ちは変わらない。
「月が綺麗ですね。」
そんなこと言っても伝わるかな。
『そうだね綺麗だね』
「それ本当に言ってる?」
『え?どゆこと?』
「ううんなんでもない。綺麗だね」
『うん!』
やっぱわかんないか。
不安と期待を胸に閉まって、また夜を眺めた。
それからお互い用事がない日は、ほぼ毎日ここへ来ていた。
そして俺は、言い続けた。
"月が綺麗ですね"
それでも彼女は
『何回言うの笑。綺麗だけど』
本当の意味をわかっているのかな。
やがて高校を卒業した。
[今日いつものとこ来て。]
[わかった]
彼女との会話はそれが最後。
ここへ来るときに車にはねられたんだって。
俺は後悔でいっぱいだった。
なんで彼女を守れなかった。
なんでもっと彼女のことを考えていなかった。
なんで迎えに行かなかった。
なんでもっと早く気持ちを伝えていなかった。
彼女は家を出る前お母さんに言ってたんだって。
『今日優吾に言いたいことあるから早く行かなきゃいけないの!』
〈気をつけてよー!〉
俺が伝えなきゃいけなかったのに。
俺が言わなきゃいけなかった。
なのになんで…。
今夜もこの場所で夜をみながら君を待つ。
いつ約束は果たせるのかな。
今日も月は綺麗だった。
−fin−
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。