今夜も夜の街をふらふらと歩く。
肩をがしっと掴まれ、振り返ると、懐かしく久しぶりに見る顔が。
『お前なんでこんなとこいんの』
「樹こそなんで」
『お前にはもう関係ないじゃん』
「じゃあ私もじゃん」
久しぶりに二人で笑ったな。
『声かけられたんだし、いいよね?』
「お好きにどうぞ」
ホテルで事を終えた後、
『てかなんでお前こんな子になっちゃったの。前までは純粋な女子だったのに』
「…樹がいなくなったからだよ」
『…そっか』
確かに昔はこういうことに全く興味はなかったが、樹に出合って覚えてしまった。
『じゃあ俺もう行くね』
「待ってよ。このままずっと一緒に居よ」
あぁ。私やっぱり変わったな。
前までは服の裾をちょこんと掴むだけだった。
今は手までガシって掴んじゃってるよ。
−fin−
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!