入社して1年目。
1年も経ち、仕事にも慣れてきたものの、
ミスは減ることはなかった。
気付けばオフィスには一人それが毎日だった。
「はぁ…」
『どうしたの?』
いつもは仕事を早く終わらせて1番に帰る松村先輩が今日は残っていた。
「資料まとめるのが終わらなくて。松村先輩はどうしているんですか?」
『俺は今日一日中外で会議だったから、今寄ったの』
「そうなんですね。お疲れ様です」
しかし、10分経っても20分経っても松村先輩は帰ろうとしない。
「えっと…まだかかるので、帰っていただいても大丈夫ですよ」
『何言ってんの笑。女の子一人じゃ帰らせれないでしょ』
ふいにそういうことを言う。
ドキドキするってわかんないんだろうか。
「あ、ありがとうございます。すぐ終わらせます」
『ゆっくりでいいよ』
そう言ってコーヒーを淹れてくれた。
どこまで紳士的なんだろう。
「ふぅ…やっと終わった」
後ろを振り返ってみると、デスクにもたれかかって寝ている松村先輩。
その顔は、どこかのアイドルよりもかっこよく、素敵だった。
「……お疲れ様です…」
私はバレないように、頬に唇を落とした。
『ん……あ、終わった?』
「あ、お、終わりました。お待たせしました」
『よしじゃあ帰ろっか』
『あなたちゃんの家ってここらへんなんだね』
「はい」
『俺も近いから、毎日送ってくよ』
「え…」
次の日から、送り迎えを松村先輩にしてもらうことになった。
こんなに過保護にしていただいていいのか。
『あなたちゃんは彼氏とかいるの』
「私はいないです」
『じゃあ付き合っちゃう?』
「へ⁉」
『ふっ笑。冗談だよ。じゃあ頑張ろう。俺も今日は一日中パソコンだ』
朝からあんな事を言われて、頭が余計に回らない。
でも松村先輩に間に合うために、急いで仕事を終わらせる。
すると、松村先輩が持ってきてくれた資料と同時に、付箋が貼ってあった。
"ちょっと印刷室来て"
ドキドキした。
仕事を一目散に切りをつけて、印刷室へ向かった。
ガチャ
『あ、来た来た。笑』
「な、なんでしょうか」
ドアの窓から見れないように、私を床に押し付けた。
もちろん鍵もかかっている。
『あなたちゃん…もう我慢できなかった。こんなところで言うのもなんだけど…好き』
「えっと…」
『付き合って』
この日からだった。
私達のオフィスラブが始まったのは。
-fin-
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。