『おまたせ!』
ついに京本とご飯に行く時が来てしまった。
「おう。どこ行く?」
『ジェシーが言ってた焼肉屋行かない?』
「そうだな」
緊張して話せない。
京本は楽しそうな顔をしている。
なんでそんなに余裕なのか。
『何頼む?』
「京本好きなのでいいよ」
『………』
「京本?」
『大我って…呼んで?』
「え?」
『二人で居るときくらい、大我って呼んでほしいな…』
「なんでだよ」
『いや、無理だったらいいんだけど』
「……無理」
『だよね…ごめんね急に』
今日の京本、何かおかしい。
京本のせいで俺も調子が狂う。
「俺払うね」
『いいよいいよ。俺誘ったんだし』
「いや、誘ってくれたんだしそんくらい払わせてくれ」
『ありがとう北斗』
「おう。…たい…が…」
『え…今なんて』
京本は、顔を赤らめ、目をまんまるにしてこちらを見て驚いた。
「なんでもない。たいが行くぞ」
『え!やっぱり!今大我って言ったよね?』
「言ってねーわ」
端から見ると仲のいい男友達に見えると思う。
けど、俺は内心そんなことは全然ない。
馬が合わないことを通り越して、何故か今は嬉しくてドキドキしてる気がする。
「じゃ、気をつけて帰れよ」
『うん!北斗もね。今日はありがとう。
もう一回大我って呼んで?』
「呼ばねーわ。じゃぁな大我」
『やったー‼』
これが京本が、ファンに可愛いと言われる理由だ。
でもこれは2人きりだけの時。
2人になるのもとても緊張したくらいだから、他のメンバーな居るときはこんなことできない。
もちろん大我呼びも。
「はよ」
[HA!北斗おはよー]
「朝からうるせーよ。笑」
『北斗、おはよ!』
〔待って待って、きょもほくデキてんの⁉俺泣くかも‼〕
「できてねーよ」
『北斗、大我って呼んでくれたよね!』
「呼んでないし…」
〔え⁉北斗呼んだの!?〕
「呼んでないっつってんだろ!」
ごめんな京本。
俺は自分の気持ちを優先することはできないようだ。
これからも"不仲"だけど、
また2人になった時はよろしくな。
俺には自分がわかんないんだ。
-fin-
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!