ある春のこと
放課後の音楽室から美しい音色が聴こえる。
それは俺の最初で最後の恋だった。
北斗side
一人でり登校し、一人で下校する。
友達なんて一人もない。
唯一の楽しみは
本と音楽だった。
ある日、日直の用事で音楽室に荷物を取りに行こうと、人差し指でドアを叩こうとした時。
部屋の中からとても綺麗で美しいピアノの音が聴こえてきた。
俺は手をおろし、そのまま聴いていることにした。
やがて音楽が終わり、俺はまたドアに人差し指の関節を向けた。
そして3回打ち付けた。
中から返事をする声は、
ピアノと同じ
透き通るような美しい声だった。
俺が中に入ると、ピアノに手を掛けこちらを丸い目で見てくるのは、どこかで見たことあるようなないような、とても美しい女性だった。
この学校にはいた記憶がない。
よく見てみると、袖にはうちの学校の刺繍がしてあった。
「ピアノお上手ですね」
と俺が言うと、
少し切なそうにに
ありがとう
と言った。
なぜ切なそうにしていたかは、聞かないことにした。
荷物を持ち、帰る前、
「これから放課後来てもいいですか」
すると彼女は、さっきよりも切なそうに
コクりと頷いた。
彼女の名前は
奏
というらしい。
その後、俺が帰ろうとしたとき、満面の笑みで
またね
って言ってくれた。
そして毎日、綺麗な音色を聴かせてくれた。
音楽室は、
夕日の光で暖かく、
時が止まったような空間だった。
放課後音楽室に行くようになってから、一週間が経とうとしていたとき
俺は聞いたんだ。
「奏さんは、彼氏とかっているんですか?」
すると
しばらく沈黙が流れた。
「ご、ごめんなさい
変なこと聞いちゃって」
『いるよ』
「…え…」
『でも死んだの』
『自殺したの』
『……音楽室の窓から……』
「そうだったんですか」
そこからまた沈黙があった。
「 奏さんはまだその人のこと好きなんですか?」
『…好きだよ』
「そうなんですか…」
窓から入る光が
奏さんの目から堕ちる滴が光に反射して綺麗なんて言えないよな。
次の日も音楽室に行った。
けどそこには奏さんの姿はなかった。
次の日も、その次の日も。
俺はもう辛かった
友達もいないし
親もいない
奏さんともう会えないのなら
命の意味はないと思った。
俺は、
音楽室の窓から飛び降りた。
彼女の音色を思い出しながら。
それが最後。
これで僕の最初で最後の恋は終わった。
‐fin‐
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。