第3話

11
2021/09/11 12:56
「未郷誠です。よろしくお願いします。」
俺の名前は未郷誠。今日からこの銀翼士団に正式入団することになった。
俺が入る幻影戦闘下はすっごく強くてカッコいい先輩達って聞いたんだけど…
みんな顔怖っ!!ライフルの人はむっつりだし、白髪の人はなんかすごいみてくる。とにかく目つきが怖いリーダーさんはオーラだけで人殺せる。
大丈夫か俺…殺されたりしない?入団式に行かなきゃいけない時刻になり、先輩方と話しながら行きなさいと言われた。
…ひとつ言わせてくれ。無理です。
「やぁ、ようこそ銀翼士団幻影戦闘下へ!」謎の明るい声で言ってきたのは白髪の人だった。
「俺は白沙海飛。他の下との連絡や抑制をしている。じゃ、次。」
海飛さんは次にライフルバッグを背負った銀髪の人に話題を振った。
「……赤馬奏空。」名前だけ呟いて外を見ながら歩いてしまう。
「あー、奏空はスナイパー。細かいのは後。で、最後リーダー…名乗る訳ないか。」
目線を向けたのは群を抜いて怖い殺気溢れる人だった。ひぇぇ、聞きたくない…
『彼は幻影戦闘下指揮官。リーダーだよ。』そして目配せする。
「名乗る必要はない。聞きたきゃ海飛に聞け。」リーダーさんはそう言った。怖っ。
『あー、知りたい?』コクリと頷く。
「彼の名前は北城死負。能力はボスからのお墨付き。」
死負…名前も怖すぎませんか?
「おい海飛。キャラ作んなよ。情けは無用。仲良くなんていらねぇ。」
死負さんはそう言った。え、海飛さんあっち系の方だったの?
「最初はこう接するよ。素に戻ると誰も話しかけない。」…マジかよ。
チッと舌打ちをして黙々と歩き出してしまった。
「今日うちの下の説明あるから、また詳しく聞けるよ。死負も悪気はないさ。」
素であれは相当やばいですけどね!?とんでもない下に入ったよ俺…
そうして後は無言でボスの応接室についた。ボスの部屋はボスしか入れないらしい。
「ご苦労。よく来たね。私はこの組織のボスをしている。そこの新入りの君、この組織の仕組みはわかるかい?」
「は、はいっ!」
この組織は潜入やハッキング、邪魔者の始末をしている。一見悪に見えるが、警察のトップに君臨する秩序を守る組織の裏で違法捜査をしているだけだ。銀翼士団はいくつもの下があり、特に幻影戦闘下は戦闘力が重要視される。
「話が早いね。じゃぁ君の仲間についてだね。まずそこの銀髪の人、白髪の人、最後に殺気立ってる人。いいね?最初に赤馬。彼は狙撃の名手だよ。他のスコアも高いけれど、指揮力が低いね。単独行動を好むんだよ、彼。打ち解ければ君の良き先輩だ。」
へぇ。イメージ変わったかも…
「次、白沙。彼は知能が高いんだよ。運動スコアがやや低めだけど、正義感も強くて殺気立ってる人の抑制もしてくれる。冷静沈着で、君に話しかけてくれるよ。彼を頼りにするといい。他の2人はまだ諦めた方がいい。」
うん、それは思いました。この人居て良かった。
「最後。死負。彼の能力は過去最高レベルだ。性格と正義感に難ありだが、指揮も頭脳も運動も彼がピカ1だ。ただ彼は任務以外ほぼ喋らない。打ち解けるのに多分何年もかかる。怒らせると腕無くなるから気をつけろ。」
ひぇぇぇ、お助け…いや、待てよ?何で死負さんだけ下の名前で呼んでいるんだ?
やばい、めちゃめちゃ気になってきた。後で海飛さんに聞いてみよっと。
「ここは全寮制だからね。幻影戦闘下で一緒の部屋だから。沢山話せと死負にも言っておくよ。安心なさい。」
「あ、あありがとうございます…」何とかなるかも…
そうして部屋を出た。そこで死負さんにある事を言われた。
「お前はまだ任務には連れてけないからな。見て学んでろ。」
「は、はいっ!」声低くてめちゃめちゃ怖いよ…
「誠、君は一度部屋に戻りなさい。俺達は報告書提出してから行くから。」
「は、はいっ!」海飛さんが一番優しい。
部屋に行って、机がある所の前で正座していた。うっ、もう初日なのに辞めたい…
先輩達のベッドがあって、奥の2段ベッドの2段目が死負さん、下が空いてるから俺で、手前の上が奏空さんで下が海飛さんか。
自分のベッドに腰掛けた。ふかふかだなぁ。…ん?
死負さんのベッドから何か光が…登っていき、顔を覗かせる。
……写真か?写真たてに入っていない写真があった。そこには、幼い少女が一人笑顔で写っていた。白い髪でとても美しい少女。誰だ…?
トントンと足音が聞こえてきて、勢いよく降りようとしたら見事に落下した。痛った…
「何してんの誠。ww」海飛が笑いながらこちらを見る。…写真を見た事はバレてなさそうだ。ほっ。
「ボスからの指示で今日は飲むんだと。誠今いくつだっけ?」
「えっとー、17です。」
「何かジュースでも持ってくるよ。奏空、死負飲む?」
「………。」「………。」二人とも黙っている。
「…はい、飲め飲め。じゃ、俺持ってくるからまってて。」
え、海飛さん!?いかないでいかないで!?ちょっと!?…行っちゃった。
気まずい…怖い…助けてください…穴があったら掘って潜りたい。人生で一番思った。
しばらく沈黙が続き、またしばらくして海飛さんが戻ってきた。あぁ、神様。
「一言も喋んなかったのwwまぁ飲もう。はい、コレ。」
キャラを作って明るくしてくれる海飛さんが本当に唯一の救いである。
そしてみんなで適当に飲み始めた。
そして15分後。「見事に寝ましたね。」奏空さんは即寝た。死負さんも少ししたら寝てしまった。
「お酒、強くないんですかね。」
「ははww奏空は弱いね。でも、死負は強いよ。超がつくほど。まぁ寝たって事は何かあったんだね。死負はどんなに疲れてても寝ないから。嫌な事でもされたんでしょ。」…え?嫌な事?さらぁっととんでもない事を…
「嫌な事って…何ですかね?」すると海飛さんは少しのアルコールを口に含んでから言った。
「詳しくは知らないけど。ボスに目付けられてるとか暴力受けてるとか。彼自身…何でもない。」
「え、何ですか!?教えてください!」途中で切られると気になる…
「いや、誠にはまだ早すぎる。早すぎるから待て。」
「大丈夫ですから、お願いします…!」
「じゃぁこれを聞いても本当に大丈夫と言えるか?」挑戦的な目でこちらを見て、また口を開く。
「俺が知った時1週間震えて動けなかった。奏空だって心を失いかけた。過去には死んだ奴だっている。それでも誠は大丈夫で聞けると言えるか?」
…っ!?「…言えないです、すいません。」その重みに俯く。
「いや、気を落とさないで。それが正常だ。君が苦しむ必要はないからね。」
海飛さんは笑ってくれた。その笑顔に涙が出てきた。
「えぇ!?何で泣くの!?怖かった?ww」心底驚いている。
「…ごめんなさい。訓練とかでっ、いっぱいいっぱいでっ。笑いかけてくれるなんて、忘れる位前でっ」
…あぁ、俺情けないなぁ。あの最強である幻影戦闘下に入れたのに。先輩の前で泣くだなんて。
「…なぁ誠。泣く気持ち、抑えてたんだな。…いいよ、抑えんな。」
背中を2回だけトントン叩いてくれた。少しの間ポロポロ泣いて、落ち着いてまた海飛さんは飲み始めた。優しい表情は変えずに、優しい眼差しでこちらを見ながら。幻影戦闘下で初めて、ぬくもりを感じる事ができた。
「悪ぃ、寝た。」奏空さんが頭を掻きながら申し訳無さそうに謝る。
「あ、おはよ。よく寝れた?最近あれだろ?気ぃ休めろ。」何の話をしているかわからない…
「あぁ。サンキュ。でもその件は死負も言ってくれたし大分楽だよ。」そう言って二人は柔らかく笑った。
…う、イケメンすぎるこの人達…ってあれ?死負さんは?それに二人も気付いている。
「あ、死負いないのはいつもの事だから。急に消えるんだよ、あいつ。気にすんな。」
え、それ日常なの?幻影戦闘下はすごい個性的だな。
「おい訓練士。明日朝1でいいもん見してやる。だから今日はもう寝ろ。」奏空さんはそう言った。恐らく俺の名前覚えてないんだろう、ちょっと辛い。
「誠。奏空の世界を見てきてみな。きっといい経験になるよ。」海飛さんもそう言った。
「はい!奏空さん、海飛さん。おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」「ん。」それぞれ返してもくれた。
ベッドに潜り込み、布団に包まる。寒くても心の中は暖かかった。嬉しさで中々眠れなくて、うとうとしながらも起きていた。
『なぁ、誠、寝てるか?』『ん、まぁ浅くても疲れは取れてると思うよ。』奏空さんと海飛さんの声が聞こえる。
きっと飲み直ししてるんじゃないかな。あ、奏空さんは炭酸水かな。相変わらず死負さんの声は無い。
『おい、どう思うよ、誠の奴。』『やっと名前覚えたんだ〜、どうって何?』
奏空さんは少し真剣に言った。
『何でここに入れたか、だよ。アイツ、まだまだ過ぎるぜ。幻影戦闘下は明るさを必要とせず、ひたすらに能力を求め、無心で人を殺せる奴を配属させてる。アイツに人が殺せるのか。』
海飛さんは笑いながら言った。
『何でって、彼に死負を変えて欲しいんだよ。わかんなかった?』不思議な事を言う。
『はぁ?死負は組織でも優秀で求められた存在だ…って。あぁ、あれの事か。』
『ふふっ、話が早くて助かるよ。まぁこの話は2人で。誠が起きても困る。電気消すよ。』
『ん。誠は知らない人生でいい。じゃ、俺は明日誠連れてくから。例の任務は頼む。』
『了解。元々奏空オフだったし。気にせず休め。おやすみ。』『ん。』
やべっ、寝坊するかも。なんとか寝よう。
『おい、誠。誠。起きろ。』
「んっ…ふぁい?って、すいません!」俺の予想は的中し、奏空さんに恥晒しをしてしまった…
『早く来い。次ノロノロしたら撃つ。』ひぇぇ、すいませんっ!
何とか靴下まで履いて立ち上がる。
そして奏空さんについていった。しばらく暗い夜道を歩く。手の先が赤くなり、息は白い。
海の近くまで歩いてきて、山の様な岩によじ登って腰掛ける。
その頃には手先だけでなく指はほぼ全て真っ赤だった。凍りつく様な寒さに震える。
ボフッ。その時暖かい布が被さった。
『寒いか?…これ着とけ。ポケットにカイロあるし、適当に暖取れよ。』
奏空さんは自分の着ていた上着を俺に被せてくれた。大きくてあったかい…あと優しい…
「ありがとうございます。奏空さんは寒くないんですか。」
「寒みぃよ。まぁ少し位大丈夫。それより、向こう黙って見てろ。」
えっ?っ!!!そこに広がるのは朝日だった。夜と朝が交わる空の世界。奏空さんの世界。
「これが守りたい物だよ。俺の場合だけどね。」苦笑いでいう奏空さんはカッコ良かった。
暗闇の中で光る星。光を光らせる闇。色が織りなす空。空が織りなす奏空さん。
明けない夜は無いと教えてくれる光。闇が悪だとは限らないという光。
身体中が痺れて、頭の中を飽和している。壮大な空に魅せられていた。
「……本当は俺が言うべき事じゃねぇんだけどさ。」無口な奏空さんが口を開いた。
「死負にも、過去ってもんがあるんだよ。死負は過去に呪われて殺されてる。」
………………!?
「この先は近い将来わかる。そろそろ帰るぞ。」
「……は、はい…っ!」何とか笑顔を取り繕ってついていく。
死負さんと、一度だけきちんと話がしたい。そう思った。
でも、それは今思って良い事じゃ無い。まだまだこの先の話。
組織が怖い。リーダーが怖い。失敗が怖い。死ぬのが怖い。過去が怖い。
もう銀翼士団と縁を切りたい。
でも、ぬくもりは少なからず存在するんだ。
今俺が感じた、あのぬくもり。
縁はもう少しだけ残しておいて。今は目の前にいる3人と向き合いたい。
まだ逃げたく無い。もう少しだけ、俺ができる言葉を紡ぎたい。
そう思って、再び歩き出した。もう、振り返る事はなかった。
そのあとは上着を返して部屋に戻り、新しくノートを開くことにした。
奏空さんと海飛さんは寝てるし、昨日のあれっきり、死負さんはいない。
今時パソコンやスマホで記したい物全てが解決できる。
でも、この記録だけはノートに置いておきたい。書く事は死負さんについてだ。
そもそも死負さんについて知っているのは3つだけだ。
ある少女の写真を所持している事。名前。そしてその能力。正直情報が少ないし、不確定的な物もありすぎる。死負さんのガードはダイヤよりも硬いと思う位彼は自ら語らなかった。
うーん、まずは写真から考えよう。写真の少女は恐らく10歳位。そこまで古くはない。
………子供?いや、彼女の幼い頃?謎は深まるばかりだ…
後、年齢が分からない。というか死負さんをまともに見ていない。これも気になる。
うーん、本当に誰なんだろう…?
「よっ、誠。おはよ。」ぎゃああああ!…あ、海飛さんか。
「今任務終わりで帰ってきたとこ。あとはオフだよ。で、何してんの?」
「えぇっとぉ…ちょっと死負さんについて何ですけど…」
「あーね?いや待て。死負くるから閉じないと切られるぞ。」
「ひぇぇっ、今すぐしまいます!!」慌ててノートをしまう。
ガラガラガラガラ。死負さんが顔に傷を付けて帰ってきた。
「お疲れ、死負。ちょっと座れよ。」
「………。」死負さんだから放っておくと思ったけど、死負さんは黙って座った。えぇ、珍しい。
海飛さんは慣れた手付きで消毒し、周りの血を拭いてガーゼを貼り出した。
「……ぃっ。」小さな声で痛がる死負さんはなんか可愛かった。
「はいはい、もう少しじっとしてろ。……はい終わり。」
「……さんきゅ。朝飯食い行けよ。」
「はーい。てゆーか、誠連れてって。連携大事だから。ちゃんと話せよ。」
え、まってまって俺が無理!ねぇ俺が無理!
「チッ。おい未郷行くぞ。」は、はひぃ!
食堂では朝昼夜と、豪華な食事が出る。好きなものを取って友人らと話しながら食べている。
一方その頃俺たちは…
「……死負さんって朝和食なんですね。意外です。」
「……まぁな。洋食食うと腹一杯で動けねぇ。」
……ww。そんな理由で!?可愛いかよ。絶対言えないけど。
その後はほとんど喋らなかったし、空気もピリついていた。でも俺は殺される覚悟で質問をした。
「死負さんって周りに誰か女の子います?子供とか彼女とか。」
死負さんは箸を置いてこちらを見た。…怖!あぁ、俺終わるんだな。
「…俺結婚してねぇから。子供育てられんし。何だよ急に。」
「い、いえ、何となくです。」
たしかに子供お父さん怖すぎて泣いちゃうかも…
「ふふ、あはは!ww」とうとう俺は声をあげて笑った。
その後人生で一番青ざめた。やっっっっっっべぇ。本当にやべぇ。
死負さんはこっちを見て不機嫌そうに、一言。多分殺される。
「食事中にあんまり喋んな。さっさと食え。」
……………え?それだけ?
「あ、は、はい。」
育ち良いんだろうなぁ。注意するとこそこ?え?
意外すぎる一面に内心驚きながら、一日を終えた。

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