ようやく何があったか思い出した私は、生きていることにおどろきながらにやにやと笑う二人の男の人──二人とも若くて、一人は金髪の背の高い人、もう一人は赤髪の縮れ毛の人だ───を見上げた。なんだか危険な雰囲気を覚えたが、まだぐらぐらする頭を起こして言う。
今の自分にできる精一杯の笑顔を浮かべる。男の人達は一瞬驚いたように目を見開いた後、先刻よりも目を歪ませて、にやにやにやにやと笑った。
失礼ながら、二人の身なりや部屋のさまを見てきっとお金に困っているのに助けてくれたんだろうな、と想像し、掃除係で少しだけ貰えるお給料からお金を払おうと思っていた私は、素っ頓狂な声を上げた。
赤髪の男の人が、ぼろぼろのソファから立ち上がり、此方に近付いてくる。
強い力で押されて、床に倒される。戸惑っている間に、赤髪の男の人は私の体に乗ってきた。
地下街……!?
男の人のニタニタ笑いを見ながら、私の頭にはぐるぐると混乱が渦巻いていた。
私はトロスト区の旧調査兵団本部の屋上から落ちたはずなのに、どうして都の地下街にいるの?
体を楽しむってどういうこと?
身売りって、何?もしかして…人身売買…?
そこまで考えたとき、赤髪の男の人はその腕を振り上げた。
何か、おぞましいことをされる────!
本能的にそう感じた。
ゴッ
私の腕は、自分も知らないうちに男の人の顔を殴っていた。赤髪の男の人は、後ろに倒れて動かない。
この感覚。
体の奥底から、力が湧き上がってきて、心臓の鼓動が大きく波打つ感覚。
以前も体験した。
そう気付いたとたん、私のその感覚は一気に引いて、かわりに悪寒と恐怖が私の脳を支配した。
このままでは、この人達を殺してしまうかもしれない───!
すごい形相で迫ってくる金髪の男の人を見つめながら、私はこのままどうなってもいいやと思った。
そう思って、目をつぶった。
男の人の爪がお気に入りの制服を裂く音が、耳に響いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。