第22話

1,259
2020/05/18 11:34
リサ
リサ
ジャン兄!!
屋上から全速力で駆け下りた──と言っても足が痛むのでそうとう時間がかかった──私は、旧調査兵団本部から去ろうとしているジャン兄に、後ろから声をかけた。
ジャン
ジャン
リサ
私の名前を呼んで、ジャン兄が振り向く。心臓は高鳴らない──何故なら、ジャン兄がそんな緩んだ雰囲気ではなく、とても思い詰めたような表情をしていたからだ。
リサ
リサ
…ジャン兄…どうしたの?
ジャン
ジャン
いや…さっきエレンに色々話しててな
ジャン兄は私から視線を逸らし、俯いて言った。
ジャン
ジャン
「お前に俺達の命をかける価値があるのか、値踏みさせろ」って
リサ
リサ
……そうなんだ…
私も手をぎゅっと握り、視線を落とす。
トロスト区の攻防戦では、エレン・イェーガーを生かす為にたくさんの人が死んだ────地下牢に居たとき、マルロから聞いたことを思いだした。
ジャン
ジャン
……そうだ
ジャン兄が、重々しげな口調で言った。
ジャン
ジャン
お前に伝えなきゃならねぇことがある
リサ
リサ
……な、に?
ジャン
ジャン
トーマスがトロスト区攻防戦で死んだ
沈黙が私達を襲った。
リサ
リサ
う、え…?
リサ
リサ
トー兄が…死ん、だ…?
手が小刻みに震えだす。口からは、あ…という声が断続的に漏れるだけ。
ジャン
ジャン
奇行種に喰われて死んだらしい…アルミンがそう言ってた
瞼の裏に、トー兄が巨人に食べられる様子が浮かぶ。ひっ、と喉の奥が鳴って、私はその場にうずくまった。
リサ
リサ
そ、んな…わけ…っ
私の頭の中で、トー兄との思い出が走馬灯のように蘇った。
優しい笑顔、温かい手、たくましい背中───。
リサ
リサ
っ………トー、兄っ…
泣いてはいけない。ジャン兄だってきっとショックを受けてる。もしかしたら、他にも大切な人を亡くしたかもしれない。
泣いてはいけない…、自分だって、誰かにとって大切だった人を殺したんだから───
泣いてはいけない───殺人鬼は…殺人鬼らしく、気丈に振る舞うべきで…
リサ
リサ
………泣いちゃ、だめだ…
私は、小さく、声を絞り出すようにして言った。
ゆっくりと、立ち上がる。
ジャン兄の目を見つめて、私はにっこり、笑った。
リサ
リサ
そっか、教えてくれて、ありがとう
頬に一筋、涙が零れた。
ジャン兄の顔が歪んだ。これは涙のせいではない───。
リサ
リサ
ごめん…、っ……、私だって…人、こ、殺したのにッ…
リサ
リサ
こんな…泣く資格、な─────!
強く抱き寄せられた。親が泣く赤子をあやすように、背中をとんとんと叩かれる。
ジャン
ジャン
んなこと言ってたら一生泣けねぇぞ
ジャン
ジャン
お前まだ十三なんだから、そんなこと考えてないで思う存分泣け
リサ
リサ
っ…う…、っ!
涙がぼろぼろ零れた。ジャン兄にしがみついて、必死に声を押し殺して泣く。
リサ
リサ
トー兄…………トー兄っ…トー兄…!!
ふいに、私の肩にも水滴が落ちてきた。
雨かと思って涙で滲む視界を上に上げると、その考えは違う事に気が付いた。
ジャン兄も泣いていた。苦しそうに、眉間にしわを寄せて、歯を食いしばって。
私は、もうたった一人になってしまったお兄ちゃんと一緒に、大切な人の死を、泣き続けた。

プリ小説オーディオドラマ