ジャン兄が走り出した。私も、転びそうになりながらも必死で走る。
私達は走って壁まで行くと、門兵の人の目を盗んで、ウォール・マリアに入った。
一番始めに思ったのは、それだった。
同じような市街地が続いていて、町並みもほとんど変わらない。違うのは、大きな壁に囲まれていないことくらいだ。
くん、とジャン兄の手を引っ張ると、
とジャン兄はつまらなそうに言って、行くぞ、と回れ右をして歩き始めた。
その時、
ド────────ン!!!!
という大きな音が、遠くから聞こえてきた。
あちこちから、訳も分からず悲鳴が聞こえる。僅かに地面も揺れていた。
その時、南の方から現れた駐屯兵団の人が、叫んだ。
うわぁぁぁぁぁぁあ!!!
どうして今日、100年持った壁が…!
逃げろぉぉ!内地にぃ…!
おかーさーん!!おかぁさーーん!!
混乱した人々が悲鳴を上げながら一斉にこちら──門の方に走ってくる。
物凄い形相で、周りの人を押し倒し、蹴散らしながら。
ジャン兄は、歩みを1度止めていたその足を再び動かした。
繋いでいた手が、するりと抜けた。
足が…、足が動かない…
すぐ後ろまで、その時私の中で巨人よりも怖い足音が迫っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!