第11話

一章 かかしと妖精 10
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2022/10/12 09:00
 冷えた言葉に、アンはため息をついた。
アン
アン
そうかもしれないけど……。これはただ、ママとわたしの理想。でも理想だ、夢だって誰も実行しなければ、いつまで経っても理想のままよ。だからわたしは、実行するわ
シャル
シャル
それほどのかかし頭なら、その馬鹿さ加減を、ルイストンに到着したら証明しろ
アン
アン
かかしって呼ぶなって言ったでしょう!?
 アンの平手が飛んだが、シャルはそれを軽くかわした。アンは悔しくて、下唇を嚙む。
アン
アン
あなた、そこまで馬鹿にしてるわたしに、なんで自分を買えなんて言ったの。わたしなら、馬鹿にしている相手に使役されるなんて、まっぴらごめんよ
シャル
シャル
人間なんぞ、どれも同じだ。それなら間抜けに使役されたほうが、俺も楽だ。おまえはここ数年目にした中で、だんとつに間抜けそうだった
アン
アン
……なんだか……あなたと話してたら、とことん気分が滅入ってくるわね……
 シャルが売れ残っていたわけが、よくわかった。

 護衛にこれほど悪態をつかれたのでは、守られている方もたまったものじゃない。

 袖口のレースを揺らす風が、急に冷たくなった。

 アンは前方に、石ころの多い、荒れた街道が延びているのを認めた。それがブラディ街道だった。馬車はゆっくりと街道に入った。

 車輪が石ころを踏み、背の高い箱形の荷台は、振動で大きく左右に揺れる。

 空の色は澄んでいたが、空気は冷えている。ブラディ街道の周辺は高い山脈に囲まれており、山脈から吹き下ろしてくる風は、高地の冷気を運んでくるのだ。

 見渡す限り、乾き色づいた草葉が鳴る荒野だ。

 まばらな林はあるが、土地が瘦せているのは一目瞭然だった。

 ブラディ街道沿いには、村や町が存在しない。しかし街道が貫いている各州の州公たちが、自州を通過する部分をそれぞれ管理している。

 管理といっても、盗賊の取り締まりや、野獣対策をしてくれるわけではない。州公がやることは、たった二つ。

 一つは、年に一度、街道が植物に侵食されないように手を入れること。

 二つめは、旅人が野営するための、宿砦と呼ばれる簡単な砦を造ること。

 ブラディ街道は危険だが、それでも街道として機能しているのは、州公がこの二つのことを実行しているおかげだった。

 アンは王国全土の詳細な地図を持っていた。旅には不可欠なもので、エマはことに地図を大事にした。新しい情報は地図に書き加え、地図の情報を常に更新していた。

 王国西部微細地図を取り出して、近場の宿砦の位置を確かめた。そして陽が傾きはじめると、その宿砦を目指して急ぎ、なんとか日没までにはたどりつけた。

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