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第1話

兄弟
ーその日の江戸の夜は恐ろしく静かであった。



神社の境内へ続く石段をずっと登った先にある大きな赤い鳥居に座って、その双子の兄弟は夜風にあたって涼しんでいた。
見下ろした先に見えるのは、華やかな花街・吉原。
酒癖の悪い客が芸妓にうざ絡みしているのを見て、一人の男は嘲笑う。
圷
大変だなぁ、芸妓ってのは。
弟のあくつだ。
李柏
李柏
全くだ。あんな所に酒やら夕餉を食いに向かう物好きはどうかしている。
同情するのは、兄の李柏りはく
圷
あれ?兄さんあーゆー色街は好きじゃなかったの?(笑)
李柏
李柏
昔はよく行ってたが、めかけだった芸妓に間夫ができたから行かなくなった。
圷
振られてんじゃん
李柏
李柏
違うっ、増してや芸妓の白粉の匂いと酒の匂いが鼻について食事の味が分からない。俺はあそこが嫌いだ
圷
なんで人間ってのはあんな偽りの恋に自ら金を費やすんだろうな。
圷は呆れたように吉原の風景を見下ろしながら呟く。
李柏
李柏
...一晩だけの夢を見るためだ。
圷
...夢、ねぇ。
どこか切なげに圷は少し目を細めた。
圷
じゃあ、夢を見させる商売をしている吉原あそこの芸妓には、誰が夢を見させてやるんだ。
李柏
李柏
さぁな。芸妓は、閉ざされた吉原の大門の外から出ることが夢だからな。そんな夢、自分が見る以外許されねぇんじゃないのか。
圷
・・・へぇ。じゃあ
圷は付けていた狐面をそっと額に上げ、悪戯な笑みを見せた。
圷
俺達がその夢を見させてやるってのはどうだい
李柏
李柏
……お前はすぐおかしなことを考えるな。
圷
だって、そんなの不公平だろ。
李柏
李柏
この御時世、不公平なんざ付き物だろ。俺たちだって、兄さん、  、   、を探しているだけなのに浪人だとか、辻斬りだとか言って武士に追われるし。
そう。
圷と李柏は、四人兄弟だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



圷と李柏は双子であるが、その上に兄、2人の下に妹がいた。父は李柏たちが5歳の頃に、風邪を拗らせ病で亡くなった。

母は女手一つで4人を大切に育てていた。

長男のたすくは家庭を助けるため、毎日町に降りて藁靴売りをしていた。



ーしかし、まだ圷と李柏が9つの頃。


戦で家の近辺が炎に包まれた。
李柏(幼少期)
母さん!暑い!早く逃げないと!
圷(幼少期)
弼兄さんがいないよ!!俺探してくる!!
李柏(幼少期)
だめだ圷!
圷(幼少期)
でもっ…!!!
李柏(幼少期)
弼兄さんは朝から町に出掛けたんだ!町の中心部はここ程火はまわってないって一棟向こうのじいさんが言ってたからきっと弼兄さんも無事だよ!
圷!!李柏!!危ない!!
圷(幼少期)
兄さん伏せてっ!!
ガラガラッッ!!
燃えた建物の一部と見られる大きな木が兄弟目掛けて倒れてきた。
圷は李柏に飛びついて寸前のところで交わした。
しかしー
李柏(幼少期)
っ……!!!!
母との間に木が倒れてきた為、母はこちらに渡れなくなってしまった。
圷(幼少期)
母さん!!
はやく裏山に逃げなさい!!
圷(幼少期)
でも!母さんとつばめ(妹)は!
あとでお母さんも燕を抱いて裏山に向かうから!!早く行きなさい!
母はまだ赤子だった燕を必死に抱えて言った。
だが、圷は何処と無く感じたのだった。

ーもう二度と会えないような予感が。
圷(幼少期)
嫌だ!!俺がそっちに向かうからっ……!!!!だから!
李柏(幼少期)
圷!
李柏!圷と一緒に逃げなさい!!お願いだから!
李柏(幼少期)
っ……!
李柏も、圷と同じ嫌な予感がしていた。
胸の中がざわざわしていた。とても怖かった。
しかし、覚悟を決めて圷の手首を引っ張った。
李柏(幼少期)
行くぞ!!!
圷(幼少期)
兄さんっ!やめっ……!!
李柏(幼少期)
裏山に居たら、そのうち母さんも弼兄さんも来る!!考える余地ないんだ!早く走れ!!
圷(幼少期)
っ……
圷は泣きそうになるのを我慢して、李柏の手をぎゅっと強く握った。そして懸命に走った。
妹の燕は大きな声で泣き続けた。
泣き声を耳にしながら、後ろを振り返ることなくひたすら走った。
どれだけ走っただろう。

気づけばそこは裏山の頂上に来ていた。

そこでは町が一面に見渡せる場所だったが、そこで目にした光景はあまりに衝撃的だった。
李柏(幼少期)
これが……俺たちの町なのか……
至る所で家事が起こっていた。火の海を見ているようだった。道端で倒れている人、懸命に逃げている人、声を上げて泣いている人、部下に命令を出す武士。
圷(幼少期)
怖い……怖いよ兄さん……俺たちこれからどうなるの……??
圷のその声は震えていた。
李柏(幼少期)
ばか。泣くなよっ。兄ちゃんがついてるだろ……??そのうち会えるさ。
そして、戦が終わってから間もなく、兄弟のもとに文が届いた。

ー母の死を知らせるものだった。

妹の燕と兄の弼は身元不明のまま。
しかし、母が死んだということは、あの日母と共にいた赤子だった妹も恐らく死んだのだと兄弟は考えた。

残された家族はだだ1人、兄の弼。
弼に会うため、兄弟は16になった今も探し続けているのである。

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圷
絶対、見つけ出すんだ。弼兄さんを。
ぐっと拳を握りしめそう呟いた。
李柏
李柏
あぁ。この必ず、俺たちの手で。