特に何をするわけでもないままチャイムが鳴り、教室に先生が入ってくる。
七実はそれを見るなり自分の席に戻ろうと立ち上がった。そのあとすぐに私に声をかけようとしたみたいだったけれどもあまりにも私が話しかけてほしくないという顔をしていたらしく、口を閉じてそのまま戻っていった。
七実に嫌な思いさせちゃったかな。
こんな時にストレスを他人にぶつけることしかできない自分が嫌になる。いっそのこと消えてしまいたい。
私はだるい体を机に預け目を閉じた。
周りの音がさっきよりもよく聞こえる、うるさい頭が痛い。
なんで…
なんでこんなことになっちゃったの?
「…き?」
「美咲?」
「ん?」
気が付けば七海が目の前に、さっきよりも不安そうな顔をして立っていた。
「美咲一時間目移動教室だけど…」
「あぁうん、すぐ行くから先行ってて」
私は表情筋に力を入れて、出来る限りの笑顔を作りそう伝える。
七実はもっと心配そうにしてから頷いてゆっくりと歩いて教室を出ていった。
気が付けば教室には数人の生徒が残っているだけだったけれど、その生徒達もやがて教室を出ていった。
私は重たい体を持ち上げ、引き出しから教材を取り出して教室を出ようとした。
「あぁ、もうダメ」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。