侑を含む男子たちが行ってしまって、静かになった昇降口。
静かになった廊下で一人、私は立ち尽くした。
中学を卒業したら侑は引っ越してしまう。そして二度と会うことはないだろう。
目には涙という水滴が溜まっていく。
視界がぼやけていきクリアになったと思ったらまたぼやけていく。
「私、泣けるぐらい侑の事が好きだったんだ…気持ち悪い」
私は袖で涙を拭うと、誰もいない昇降口に近づいた。
脱ぎ散らかした靴を揃えて履こうとした。
「これ、何?」
私の靴には小さく折りたたまれたメモ用紙が入っていた。
中を見ると、上手とも下手とも言い難い微妙な文字でこう書かれていた。
『また今度白石に奴がお前に告白するって。答え、考えておきな』
先に教えるなんて酷い、と思う人がほとんどだろうがこれは気を利かせて先に考える時間を作ってくれている思いやりのあるメッセージ。
侑が書いたのだろう。
私の気持ちなんて知らないくせに。
こんなメッセージ、全然嬉しくない。
私はメモ用紙をグチャグチャにしてポケットに突っ込み、靴を履いた。
放り投げたカバンを乱暴に肩にかけると家に帰った。
そういう運命なんだ…
私は幸せになれるなんて思ってないし、別に構わない。
答えだって決まってる。
もちろんNOだ。
おしまい
私の青春なんて対したものじゃないんだから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!