次の日から紅音への攻撃が始まった。
机を教室の端に寄せて、さらにその上に花瓶をおいたり、落書きをしたり、棚の中にある教科書を窓から投げたり……。
誰が見ても遊びには見えない。
最初の方は無言で机を戻し、教科書を1階に
行って取りに行っていた紅音。
だけど、1週間も経つと紅音の目には光が全く見られなくなってしまった。
目の下にはクマをつくり、肌色も悪い。
転校生だった紅音は仲のいい友達がいないにほぼ等しかった。
だから、庇ってくれる友達もいなかった。
私は…紅音には申し訳ないけど、自分の身を守りたい。
沙月達の怒りを買った2週間後。
教室から紅音の姿は消えていた……。
私は誰も座らない紅音の席を見ていた。
最近、有咲の私に対する態度が大きい。
どうやら、自分の方が地位が上だと思ってるみたい。
言いたいことだけいい、いなくなる有咲。
何で命令してるような言い方なわけ?
まぁ、私はあくまでアンタ達の保険のような感じだからしょうがないですけど。
日に日に溜まっていく頭のイライラ。
それを噴火させた出来事が放課後に起きた。
たまたま沙月が私の机の横を通る。
その時、鞄に付いていたストラップが沙月の制服に引っかかって千切れてしまった。
千切れたストラップは小学校の頃、引越しでいなくなった友達が私にくれたもの。昔からずっと大切にしていた。
どこでも売ってるようなストラップだけど、そのストラップにはその子との思い出が沢山詰まっていた。
呆然と千切れたストラップを握る私を不満に思ったのか、沙月が睨みながら問う。
その問いに私は小さな声で…
そう呟いた。
次の日、沙月に「桐山。」と呼ばれ、沙月の席に呼び出された。
用事があるなら自分が来たらいいのに…。
そんなことを思いながら、沙月の元に行くと沙月はちぎったストラップと同じストラップを差し出した。
私は「ありがとう。」と言うと、ストラップを受け取り、自席に戻る。
あれが沙月なりの優しさなのだろう。
しかし、私の怒りは頂点まで達していた。
一言でも「ごめん」って言えばいいのに…。
それにちぎったのは沙月なんだからこっちの席まで来ればいいのに…。
同じものを与えとけばそれでいい。
そんなの違う。
その壊したものには、持ち主の思い出とかの見えない大切なものが沢山詰まっている。
だから、謝るべきでしょ。
だけど、3軍の私には言う権利が無い。
なら、どうしたらいい?
……私が1軍…いや、トップになればいい。
それに、トップだったら紅音は……。
私の中に黒い感情が湧き上がる。
それを私は実感した。
絶対にトップになってやる…。
そして、私の”下克上教室”が始まった…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!