何か言いたげな表情の徹。
すると、沙羅が察したように手を叩く。
沙羅がいなくなり、私と徹だけが残された。
私はそう言うと、少し戸惑っている徹の背中を押して歩き出した。
それなら徹が静かなのも納得いく。
きっと争い事が嫌いなんだ。
いつも凌久が暴れ始めたときも止めるか、もうその場からいなくなるかの二択。
クラスでの多数決では一回も手を挙げている場面を見たことがない。
だから、徹は人に優しいのか…
徹の横顔を見ながらそんなことを思う。
私なんか雪奈と問題起こしまくる方だし、今だってバレてないだけでかなりの問題児だし…
徹に"弥生"と下の名前で呼ばれると何処か胸が熱くなるっていうか…何か複雑な気持ちになる。
多分、これが好きってことなんだろうなぁ…
最初は自分の地位のためだったけど…
徹は私が見蕩れてて反応が遅れたのを少し不思議そうにしながらも、快く意見を受け入れてくれると私の手を取って歩き出した。
繋がれた手を見て、何だか恥ずかしくなる。
今思えば、一回も手を繋いだことがなかったかも。
少し早歩きで徹の隣まで行って顔を見ると、微かに頬が赤く染っているような気がする。
照れて拗ねた徹を引っ張りながら、目的の店を探していると、女子に囲まれ困り顔の倉科君がいた。
倉科君の一緒に回りたい本命は柚稀だろうし…。
いつの間にか私達の隣にいた柚稀は制服を一旦脱いだのか、帽子を目深に被って、ポニーテールを揺らしている。その後ろには悠翔君もいた。
そう言って、悠翔君が紙袋を徹に渡す。
渡すと「では、この辺で。」とスグにその場から去っていった。
カッサカサ声の柚稀は軽く手を振ると、私達の元から去った。
じゃあ、明日は学校に来ないんだ…。
何か出来ることがないか考えておかないと…
それからは一旦、下剋上のことを忘れてただ単に徹との時間を楽しんだ…。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。