また変な夢を見て疲れてる上、誰もが面倒くさがる土曜授業の日にこんな朝から私が驚きの声を上げたのは、沙羅から担任が変わると聞いたからだった。
怜央と琴葉は完全に私のせいだけどね…
言われてみれば、今日は男子がいつも以上に騒いでいる。
キーンコーンカーンコーン…
全員が席に着いたところで校長先生と一緒にスポーツ服を身につけた若い女の先生が入ってきた。
その瞬間、後ろから「えっ」という声が聞こえた。
教壇に立ち喋りながらチョークで黒板に名前を書こうとした時、教室のドアが開く。
入って来たのは、前よりも酷く頭に包帯を巻いてポニーテールを揺らす柚稀だった。
柚稀と同じくらいボロボロになった楓が教室の前で立ち止まる柚稀を押して入って来た。
新しい先生を見ると一瞬そのまま席に向かおうとしたが、立ち止まると二度見した。すると…
楓の言葉に騒ぐ男子達を含め、全員が水を打ったように静まり返った。
え…
パッと倉科君の方を見ると今の状況が理解出来てないと言いたそうな顔をしており、その前に座る燎君は笑うのを堪えていた。
再びチョークを持ち、黒板に向かうと綺麗に名前を書いて私達の方を向いた。
大笑いする燎君と沙羅。
みんな口々に「よろしくお願いします」と言う中、倉科先生が何かを思い出したように…
教室に駆け込んできた実習生が前でまだ立っていた2人の内の柚稀に後ろから思いっきりぶつかった。
押された柚稀は前に倒れて運悪く教壇に置かれている教卓の角に頭に巻かれている包帯のちょうど中心に当たり、小さな呻き声をあげてその場にしゃがみこむ。
柚稀を心配する声が上がる中、ほとんどの女子が教育実習生に黄色い歓声を上げていた。
体育の先生だが控えめなスポーツ服を着ている倉科先生を押し退けるような完全なジャージに普段から鍛えていると思われる無駄肉無しの体、その姿は誰が見ても"The・体育系"だと思うだろう。
顔も上の中くらいでモテる方。
だが、1つ私が思ったことがあった。
この人、絶対にチャラいでしょ…。
耳にはピアスの穴が何個もあり、そこから私は絶対にチャラい……てか、普通に学校にイヤーカフと小さな飾りが付いたピアスを堂々としてきている時点で十分チャラい。
千代瀬はピアス、化粧、パーマ…他の学校で引っかかるものは何でもありだった。
何故ならモデルや芸能界でも活動してる子は髪のセットやピアスをしなきゃいけないときも来るから。
だから、教師もいいらしいけど実際にしてる人は誰一人としてもいない。
それを実習生からやるとはかなりの度胸がある。
とか言いながらもまだ完全に傷が治っていない状態でぶつけたことで包帯に血が滲み出していた。
押さえてた手を見て柚稀が「はぁ…」と大きな溜息を零す。
楓と戻った柚稀が席に座ると、燎君が包帯を貰って柚稀の後ろに立ち巻き直し始めた。
校長がそう言った時には既に実習生は黒板に名前を書いていた。
どっかで見たことのある文字の並び…。
でも、知り合いにはいなかったような気が…
いつもならしないくせに今日はみんなが大きな声で返事をする。
何かこの2人だと私の下剋上が凄い面倒臭いことになりそうだ…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!