全体的に短く髪を切ったことで前髪でいつも見えなかった目が両方見えていつもに増して柚稀が中性的に見える。
いやいや、柚稀は先生に日誌を渡していた。
確かにあれは柚稀だったよね?
柚稀が足を組み替えながら話す声は段々低くなっていき、左目に手を近付け離すとそこにはいつしか見たあの青い瞳があった。
その瞳を見て、私の背筋は凍りつく。
何回見ても変わらない反抗的な目。
何回砕こうと屈しなかったそのウザさ。
何回煽っても、何回笑っても1度も怒らなかった。
そんなムカつくやつは多分、死んでも一生忘れることはないだろう。
コイツは紛れもない、私が1番嫌いな…
指に摘んでいたコンタクトレンズがプチっと音を立てて潰れる。
声色は静かなものだったが、確かにその柚稀の…錬の目には怒りの色が浮かんでいた。
そうだ…徹がまたいるんだ…!!
いつものように柔らかく微笑んだ錬が私の手足の拘束を解く。
その瞬間、錬の顔が青ざめてその場に座り込む。
視線は屋上への入口に向いていた。
屋上の入口には何もいない。
でも、何かがそこにいるように見えた。
突如、強い風が吹いて錬が青ざめた必死の表情で私に向かって手を伸ばす。
私は押されるように立ち上がって、後ろに慌てて逃げるように下がる。
その瞬間、私の体は柵を乗り越えた。
月がとても綺麗に見える。
あとは口元が三日月に動いた錬の姿も見える。
その声を聞くと、私の体は重力に従って地面へと落下を始めた。
アイツも落ちる時こんなのだったのかなぁ…
あんな風にコイツが上から見下ろして…
何故か私の目から涙が出てくる。
何でなのかは私自身も全く分からない。
落ちる時間がとても長いものに感じる。
物を落としてそんなに地面までの時間はかかるはずなのにもう何十秒も経っている気がする。
そっと目を開くとそこには1人の男子がいた。
私がその男子のことを名前まで認識したとき、目の前にはグラウンドがあったのだった………。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。