女子は何とかその後も勝ち続けて、ブロック優勝まで辿り着くことが出来た。
勝ったことにとても嬉しそうな沙羅が満面の笑顔で笑っている。上機嫌のようだ。
辺りを見回すと、試合を見に来た琉依はスマホで男バスの試合を撮り続けていた。
そして今、私達女バスはギャラリーで男子の応援をしている。
別に3人くらい応援しなくても、他の女子部員が応援に熱入ってるし、バスケ部じゃない千代瀬高校の子まで来て一緒に応援している。
そんな男バスも順調に進んでいた。だが…
確か…スタミナとパワーが均等なバランスタイプが多いチームだとか。毎年、都大会出場は勿論。全国大会にも顔を出すことが多いとかめぐみに聞いたことがある。
準決勝も勝ち進み、やってきた決勝戦。
沙羅が言っていた通り対戦校は篠宮高校だった。
何か……押されてる…?
それが試合を見ていた私の第一印象。
応援は圧倒的に千代瀬高校の方が大きい。
だけど、点数は両チーム何点も取っているようにみえるが、実際の得点は千代瀬高校の方が少ない。
試合の半分が終わり、燎君がチームメイトに指示などの声をかけている。
第3Qの残り7分の時点で点差は22点。
心配になってきたのか沙羅と潤の表情が少し曇る。
そんな時…
肩から大きめの斜め掛けポーチを下げ、スマホで動画を撮る琉依に近寄った雅。
私と目が合うと雅は「おめでとう」と口元だけをうごかしてニッと笑った。
苦笑いを浮かべた雅が男バスの試合に目を向けて…
面白いものを見るようにニヤついた雅。
その瞬間、ギャラリーがザワついた。
真っ黒の綺麗なドレスに身を包んでいる柚稀が当たり前のように千代瀬高校のベンチに向かう。
その表情は微かに怒っているようにも見えた。
ベンチに着いた柚稀はベンチに座る男子に声をかけレギュラーと全員交代させて、端に座る。
その行動に報道陣も少し騒ぐ。
倉科君達も困惑の表情を浮かべ、この会場にいる誰もが状況を呑み込めなかった。
やがて、点差は変わらないまま第3Qが終わる。
休憩時間になった時、柚稀が動いた。
腕を組み、コートに背を向けて立って、ベンチをじっと見つめる。
そして…
会場全体に響く柚稀の怒鳴り声に近い大声。
その声に会場が静まった。
ピリピリした空気が走り、柚稀の話を周りの人が一斉に小声でし始める。
その言葉に男バスが顔を上げる。
柚稀の目は真剣そのものでいつものほのぼのした雰囲気は全く見られない。
燎君の言葉を無視して、倉科君に歩み寄ると未だに下を向く倉科君の顔を両手で上を向かせる。
そして、響くけど静かな声で…
そこまで言ったところで休憩時間の終わりを告げるブザーが会場に鳴り響いた…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!