帽子を深く被り、スマホに表示されている病院と今目の前にある病院の名前を見比べる。
琉希の情報が正しければ、ここにいるはずだ。
流石に病室聞くのは変な目で見られるかなぁ。
しょうがない…こうなったら、直感。
病院の案内表を見ながら、指を立てて、ん〜…と呟くと適当に病室を指す。
違ったらまぁ……謝るのみ。
選んだ病室の番号と院内の地図を覚えると私はそこに向かった。
広い院内を歩き続け、約10分。
目的の病室に辿り着く。
病室のプレートに入っている名前を見て、私の口元はニヤけた。
独り言を呟き、扉をノック。
中から「どうぞ」と返事が来たところで私は扉を横に引いて中へと入った。
琉希が私に渡したのは事故った怜央君の情報。
様子を見てきて欲しいって言われたのだ。
果物カゴを差し出すと怜央君は素直に受け取る。
私は近くにあった丸椅子を引っ張ると、そこに勝手に座る。
その言葉に私の表情は引き攣る。
麻酔無しで切断とか…
怜央君の表情が一瞬固まる。
どうやら弥生ちゃんと関係を持っているらしい。
ズバッと切られて、私は少し怜央君を見つめる。
それから軽く吹き出した。
吹いたのはこんな鋭い目を持つ人を久しぶりに見て怜央君のことが面白く感じたからだった。
私は長い前髪を掻き上げて左目に触れる。
中指についた黒いコンタクトを見て、私…いや、俺はニヤリと笑った。
鞄からスマホを取り出すと、ギャラリーを開いて拓哉と颯斗と撮った写真を見せる。
本当のプライベートでこの写真はネットには出回っていない。
俺と拓哉と颯斗だけが持つ写真。
脚を組み直し、苦笑いする。
事故ったって聞いて正直心配したけど、こんなことで笑えるのなら問題なさそうだ。
桃原もトップを狙おうとした。
そこに三室が転校してきて、琉依経由で桐山桃香を知っていたから話を持ち掛ける。
一応協力することに。
で、俺達の仲を散々かき回してくれたところで失敗。
切り捨て。
手柄は自分の物ってか。
桃原の目をしっかりと見て、伝える。
俺から何を感じ取ったのか桃原の目に怯えの色が見えた。
別に怯えられてもいい。
別に逮捕されてもいい。
何が何でも殺す、それだけだ。
少し冗談っぽく手を叩いてみる。
本当は自らを偽った人生なんて望んでいない。
三室の為に偽るなんて考えただけで反吐が出る。
脳裏に蘇った事件を見なかったことにする。
別に聞いて得になることがない。
何かを考える仕草をした桃原がパッと顔を上げると小さく息を吐いた。
呆れたように笑う桃原。
つられたように俺も少しだけ笑う。
ふと時計を見ると、6時間目の授業が始まる時間になっていた。
あ〜…そろそろここを出発しねぇと、部活の始まる時間に間に合わないな…
俺は緊急事態用に常備している替えのコンタクトを付けると、荷物をまとめた。
扉を開けて私が廊下に出ようとした時、怜央君が「あ、空閑。」と私を呼び止めた。
思いもしなかった言葉。
私はただ笑顔でピースを残すと病室を後にした。
取り敢えず今はそれも大事だけど、あの榎本をもう少し抑えつけないと…
嫌な予感しかしない…
そんな先の予定を考えながら私は部活に向かった…
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作者の✨舞✨です。
この度『下剋上教室』がチャレンジ作品とした採用されました!
なので、その記念?みたいな感じで少しの間にはなりますがいくつか番外編を投稿します!
順番はランダムです!
もし、
「ここの話を詳しくして欲しい!」
「あそこの裏では何が起きていたのか知りたい!」
と言うことがありましたらコメントしてもらえれば優先的に書きたいと思っていますので、気軽にコメントお願いします(_ _*))
それでは少しの間ですがよろしくお願いします!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。