第144話

2学期 _ 病院
1,601
2020/02/09 09:17
空閑 柚稀
ここ、だよな……
帽子を深く被り、スマホに表示されている病院と今目の前にある病院の名前を見比べる。

琉希の情報が正しければ、ここにいるはずだ。
空閑 柚稀
えっと〜…
流石に病室聞くのは変な目で見られるかなぁ。

しょうがない…こうなったら、直感。


病院の案内表を見ながら、指を立てて、ん〜…と呟くと適当に病室を指す。
空閑 柚稀
よし、ここにしよう。
違ったらまぁ……謝るのみ。


選んだ病室の番号と院内の地図を覚えると私はそこに向かった。

広い院内を歩き続け、約10分。
目的の病室に辿り着く。

病室のプレートに入っている名前を見て、私の口元はニヤけた。
空閑 柚稀
ラッキー、私。ついてるね。
独り言を呟き、扉をノック。

中から「どうぞ」と返事が来たところで私は扉を横に引いて中へと入った。
空閑 柚稀
やぁ、久しぶり。私のこと分かる?
桃原 怜央
何だ、空閑か…。何の用だよ。
琉希が私に渡したのは事故った怜央君の情報。

様子を見てきて欲しいって言われたのだ。
空閑 柚稀
お見舞い!はい、これどうぞ。
果物カゴを差し出すと怜央君は素直に受け取る。

私は近くにあった丸椅子を引っ張ると、そこに勝手に座る。
桃原 怜央
ありがとう。
空閑 柚稀
いえいえ、調子はどう?
桃原 怜央
最悪だな。
空閑 柚稀
と言うと?
桃原 怜央
事故のおかげで右足切断。正しくは…轢かれた時に持ってかれた。
その言葉に私の表情は引き攣る。


麻酔無しで切断とか…
空閑 柚稀
それは痛かったね…
桃原 怜央
全くだ。お前は何だかご機嫌に見えるけど何かあったのか?
空閑 柚稀
まぁ。拓哉達に私の誕生日祝って貰えたことが嬉しいの。いつも家族にしか祝って貰えなかったから……友達に祝って貰えるっていいね。
桃原 怜央
意外だな。お前は友達が沢山いそうなイメージがあった。
空閑 柚稀
えー、そう?こう見えて少ないよ?2桁もいない。
桃原 怜央
1桁とか…まぁ、いいか。それよりも何の用で来た?あまり話したことも無いだろ。
空閑 柚稀
弥生ちゃんについて聞きたくて。
怜央君の表情が一瞬固まる。

どうやら弥生ちゃんと関係を持っているらしい。
桃原 怜央
……お前に話す義務が無い。
空閑 柚稀
え〜!教えてよ〜!
桃原 怜央
本性を隠すお前に話すことは無い。
ズバッと切られて、私は少し怜央君を見つめる。

それから軽く吹き出した。

吹いたのはこんな鋭い目を持つ人を久しぶりに見て怜央君のことが面白く感じたからだった。
空閑 柚稀
いやぁ怜央君みたいな人、久しぶり。何?私が本性を見せたらちゃんと話してくれる?
桃原 怜央
ああ、話そう。
空閑 柚稀
了解!じゃ、この先のことは他の人に言わない約束ね。
桃原 怜央
分かった。
空閑 柚稀
じゃあ〜……
私は長い前髪を掻き上げて左目に触れる。

中指についた黒いコンタクトを見て、私…いや、俺はニヤリと笑った。
空閑 柚稀
……本性は黒崎錬、これでどうだ?
桃原 怜央
……ガチで言ってんの?
空閑 柚稀
ガチだよ、俺は。証明する物は今は…あ、これなんてどう?
鞄からスマホを取り出すと、ギャラリーを開いて拓哉と颯斗と撮った写真を見せる。

本当のプライベートでこの写真はネットには出回っていない。

俺と拓哉と颯斗だけが持つ写真。
空閑 柚稀
小4の俺と拓哉と颯斗。家の前のバスケットコートで遊んだ時の写真。信じてもらえた?
桃原 怜央
マジか…え、男装?それとも、何かそういう手術でもした?
空閑 柚稀
してないよ。両声類なもんで、おまけに体格にもいろんな意味で恵まれてるから。
桃原 怜央
いろんな意味…あぁ、確かに。
空閑 柚稀
自覚はしてるけど、一応笑うな。
脚を組み直し、苦笑いする。

事故ったって聞いて正直心配したけど、こんなことで笑えるのなら問題なさそうだ。
空閑 柚稀
精神が死にかけだったらどうしようって思ったけど、元気そうで安心した。
桃原 怜央
ありがと。
空閑 柚稀
で、ちゃんと本性見せたから話してくれる?
桃原 怜央
…約束だししょうがないか。
空閑 柚稀
まず最初、その事故の原因は三室で間違いないか?
桃原 怜央
間違いない。
空閑 柚稀
理由はなんだ。狙われたか?
桃原 怜央
いや、口封じだ。俺は自分の地位を上げるために弥生に協力を持ち掛けた。弥生が桐山桃香っていうのは知ってたから…
空閑 柚稀
…手伝わせるだけ手伝わせて最後は殺す。最低なやつ。
桃原 怜央
自業自得。人を落とそうとしたからこうなったって思ったら何も言えない。
空閑 柚稀
まぁ、何となくは把握。
桃原もトップを狙おうとした。

そこに三室が転校してきて、琉依経由で桐山桃香を知っていたから話を持ち掛ける。

一応協力することに。

で、俺達の仲を散々かき回してくれたところで失敗。

切り捨て。

手柄は自分の物ってか。
空閑 柚稀
……俺はいずれ、三室を殺す。
桃原の目をしっかりと見て、伝える。
桃原 怜央
何で?
空閑 柚稀
三室弥生の本名は三室姫華。俺の…友達を自殺に追い込んだ主犯だ。絶対に許さねぇ……殺してやる。
俺から何を感じ取ったのか桃原の目に怯えの色が見えた。

別に怯えられてもいい。

別に逮捕されてもいい。

何が何でも殺す、それだけだ。
桃原 怜央
空閑柚稀は何だったんだ?
空閑 柚稀
適当系女子っていう役。本名は紛れもない柚稀。でも、錬の頃の俺が本物だ。
桃原 怜央
……。
空閑 柚稀
まっ、そんなことはどうでもいいさ。
少し冗談っぽく手を叩いてみる。

本当は自らを偽った人生なんて望んでいない。

三室の為に偽るなんて考えただけで反吐が出る。
桃原 怜央
お前は……本気で殺るつもりなのか?
空閑 柚稀
勿論、俺は何でも出来る。捕まらないで人だって殺せる。実際…
桃原 怜央
実際?
空閑 柚稀
……ん、何もない。安心しろ、大丈夫だから。
脳裏に蘇った事件を見なかったことにする。

別に聞いて得になることがない。

何かを考える仕草をした桃原がパッと顔を上げると小さく息を吐いた。
桃原 怜央
空閑。
空閑 柚稀
何だ。
桃原 怜央
もしお前が本気で実行する時は…その時を俺にも見せてくれ。
空閑 柚稀
!……勿論。なら、桃原がアイツと関わってる間にあったことを他にも色々教えてくれよ。どうせ、瀬山とか矢野とかもお前らだろ?
桃原 怜央
まぁな、知ってたのか。
空閑 柚稀
俺をナメてもらっちゃ困るな。
桃原 怜央
テレビで黒崎錬が神童って呼ばれた意味が何となく分かったよ。
呆れたように笑う桃原。

つられたように俺も少しだけ笑う。

ふと時計を見ると、6時間目の授業が始まる時間になっていた。


あ〜…そろそろここを出発しねぇと、部活の始まる時間に間に合わないな…
桃原 怜央
……サボり。
空閑 柚稀
設定、サボり魔なんで。
桃原 怜央
そうだったな。
空閑 柚稀
部活には行きたいからそろそろ帰る。
俺は緊急事態用に常備している替えのコンタクトを付けると、荷物をまとめた。
空閑 柚稀
それじゃ、怜央君・・・お大事に!
桃原 怜央
切り替え早っ…
空閑 柚稀
まぁね〜
扉を開けて私が廊下に出ようとした時、怜央君が「あ、空閑。」と私を呼び止めた。
空閑 柚稀
また来るけどすぐに言いたいこと?
桃原 怜央
ああ……本当に色々とごめん、勘違いばっかしてた。あとありがとう。
思いもしなかった言葉。

私はただ笑顔でピースを残すと病室を後にした。
空閑 柚稀
さぁ〜てと。怜央君の為にもの為にも私が頑張らないと〜
取り敢えず今はそれも大事だけど、あの榎本をもう少し抑えつけないと…

嫌な予感しかしない…
そんな先の予定を考えながら私は部活に向かった…
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作者の✨舞✨です。

この度『下剋上教室』がチャレンジ作品とした採用されました!

なので、その記念?みたいな感じで少しの間にはなりますがいくつか番外編を投稿します!

順番はランダムです!

もし、
「ここの話を詳しくして欲しい!」
「あそこの裏では何が起きていたのか知りたい!」
と言うことがありましたらコメントしてもらえれば優先的に書きたいと思っていますので、気軽にコメントお願いします(_ _*))

それでは少しの間ですがよろしくお願いします!

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