そう答えた沙羅の表情は笑顔。
このことを聞かれたことが嬉しいようだ。
それなら…沙羅は有名人の妹ってことに関しては誇りに思ってるのかな。
思わぬ繋がりに私は大きめの声を出してしまった。
Infinity劇団所属の夕凪朱璃、19歳。
彼女は役者という立場にいるが、女優としても活動している今話題の人気役者。
今言われてみれば、夕凪って名字が同じ…
私が持ち上げ、気分を良くした沙羅。
自分と姉を褒められ、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
1軍でも沙羅はそんなに悪い方じゃなさそう。
そんな印象を私は抱いていた。
すると、入口の方から黄色い歓声があがる。
だが、その歓声が男バスに向けてのものじゃないことはスグに分かった。
そう言われ、私が返事をする前に沙羅は私の手を引き、体育館の入口に走っていく。
そこにいたのは…
朱璃さんと同じくInfinity劇団所属の漣悠翔。
演出家の漣和久の子で昔から間近で劇を見ることが出来たからか、15歳という若さで主演に選抜。世間からは"天才役者"と言われている。
親が演出家だから贔屓されているんじゃないか、と考えている人もいるが、見れば分かるほどの実力の差があるらしい。
本当に同じ学校にいたんだ…
思わず、私はそう口にしていた。
前の学校でやったから、被ったことをついつい疑問に思ってしまった。
丁寧に挨拶してくれたが、勿論知っている。
悠翔君は少し不思議そうな表情で私を見たが、スグに話に戻した。
綾のことだよね…。
まぁ、あれはしょうがないかな。普段の柚稀は練習サボってたからいきなりあんなの見たらね…
心の中でそんなことを私は呟く。
そう言うと、悠翔君は少し困った表情を浮かべた。
そう返事をすると、悠翔君は軽く会釈をして、その場からいなくなった。
一度でいいから、見てみたいとは思った。
だけど、あまりの人気に手が出せずにいた。
こんなところで行ける可能性が出たなんて…
そのとき、いろんな意味で沙羅が1軍にいる強さが分かった気がした。
でも、沙羅とは上手くやっていけそう。
さっき、舞台の練習の見学を"一緒に"行こうと自分から誘ってくれた。
つまり、プライベートでも遊んでくれる。
そういうことになる。
よしっ!呼び捨てOKが来た!
1軍、特に派手系は自分達の地位が常に上だということを意識したいらしい。
だから、基本は"ちゃん"を付けないといけない。
親しい人や許された人だけが呼び捨てがOKに。
前回の下剋上教室で学んだことだ。
つまり、OKしてくれたということは私に沙羅が私に対して心を許したということだ。
これで私はバスケ部の中だと沙羅の隣に並べる。
あとは、リア充になれば一気に地位が上がるけど…
ここで焦っても失敗するだけ。
そう感じた私は、取り敢えずは今の状態でいいだろうと思い、思考を止めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!