第62話

有名人の妹と1年生
3,202
2019/02/21 09:15
三室 弥生
沙羅〜!
夕凪 沙羅
ん〜?どした?
三室 弥生
あのさ!クラスの子から聞いたんだけど、沙羅が有名人の妹って話、本当?
夕凪 沙羅
あっ、それ?本当だよ!
そう答えた沙羅の表情は笑顔。
このことを聞かれたことが嬉しいようだ。


それなら…沙羅は有名人の妹ってことに関しては誇りに思ってるのかな。
三室 弥生
それでそれで?誰の妹なの?
夕凪 沙羅
夕凪朱璃って名前だけど、知ってる?
三室 弥生
あのInfinity劇団の!?
思わぬ繋がりに私は大きめの声を出してしまった。
Infinity劇団所属の夕凪ゆうなぎ朱璃あかり、19歳。
彼女は役者という立場にいるが、女優としても活動している今話題の人気役者。
今言われてみれば、夕凪って名字が同じ…
夕凪 沙羅
そうなんだよ〜!朱璃がお姉ちゃんなのは、私の誇りなんだ!
三室 弥生
沙羅ちゃんもバスケ部部長って肩書きなんだからかっこいいよ!
夕凪 沙羅
そう?ありがと〜!
私が持ち上げ、気分を良くした沙羅。
自分と姉を褒められ、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
1軍でも沙羅はそんなに悪い方じゃなさそう。
そんな印象を私は抱いていた。
すると、入口の方から黄色い歓声があがる。
だが、その歓声が男バスに向けてのものじゃないことはスグに分かった。
男子
あの…沙羅さん、お願いします。
女子
沙羅ちゃん!呼ばれてるよ〜!
夕凪 沙羅
あ、はーい!弥生もせっかくなんだから来なよ!滅多に話せないよ?
そう言われ、私が返事をする前に沙羅は私の手を引き、体育館の入口に走っていく。
そこにいたのは…
三室 弥生
わぁ、本物だ…
朱璃さんと同じくInfinity劇団所属のさざなみ悠翔ゆうと
演出家の漣和久かずひさの子で昔から間近で劇を見ることが出来たからか、15歳という若さで主演に選抜。世間からは"天才役者"と言われている。


親が演出家だから贔屓されているんじゃないか、と考えている人もいるが、見れば分かるほどの実力の差があるらしい。
本当に同じ学校にいたんだ…
夕凪 沙羅
今日はどうしたの?
漣 悠翔
次の劇が決まったので、それを教えようかと思って。
夕凪 沙羅
おっ!なになに?
漣 悠翔
俺が父さんに提案したんですけど…"銀河鉄道の夜"になりました。
三室 弥生
えっ、何で?
思わず、私はそう口にしていた。
前の学校でやったから、被ったことをついつい疑問に思ってしまった。
漣 悠翔
えっと…
夕凪 沙羅
あ、この子、弥生って言うの!転校してきたばっかり!
三室 弥生
あ、は、初めまして!
漣 悠翔
初めまして、漣悠翔です。
丁寧に挨拶してくれたが、勿論知っている。
悠翔君は少し不思議そうな表情で私を見たが、スグに話に戻した。
漣 悠翔
前、文化祭の演劇で有名な女子高の劇を見に行ったんですよ。その時に見た銀河鉄道の夜が凄かったので、やってみたいなと思ったんです。
夕凪 沙羅
あぁ〜、何か凄かったらしいね。友達から聞いたけど、主役の子が固まったのが原因でクラス賞は落としたとか。
三室 弥生
うわっ、それは残念…
綾のことだよね…。
まぁ、あれはしょうがないかな。普段の柚稀は練習サボってたからいきなりあんなの見たらね…
心の中でそんなことを私は呟く。
夕凪 沙羅
主演とお姉ちゃんはどうなった?
漣 悠翔
ジョバンニは俺、朱璃さんはザネリになりました。
三室 弥生
あ!あれは?カムパネルラは?
漣 悠翔
まだ決めてないらしいです。もう練習が始まってから1ヶ月くらい経っているんで、そろそろ決めてもらわないと困るんですけどね…
そう言うと、悠翔君は少し困った表情を浮かべた。
夕凪 沙羅
まぁ、主演おめでと!また今度、練習見に行ってもいい?
漣 悠翔
いいですよ。もし良かったら、弥生先輩も見に来てください。
夕凪 沙羅
やった!弥生!テスト終わったら一緒に行こ!
三室 弥生
うん!公演日はいつになりそうなの?
漣 悠翔
確か、10月の初めの週に東京で、そこから全国ツアーですね。全部で30回はありますよ。
夕凪 沙羅
楽しみにしてる!
漣 悠翔
はい。今回もいい劇にします。
そう返事をすると、悠翔君は軽く会釈をして、その場からいなくなった。
夕凪 沙羅
弥生〜!もしかしたら、悠翔君が弥生の分の席も取ってくれるかもよ!
三室 弥生
どういうこと?
夕凪 沙羅
あたしさ、毎回Infinity劇団の公演見に行ってるんだけどね、悠翔君とお姉ちゃんが先に予約してくれてるから見れるの!だから、今ので仲良くなれそうだったから、取ってくれるかもって!
三室 弥生
そういうこと!見れたらいいなぁ…
一度でいいから、見てみたいとは思った。
だけど、あまりの人気に手が出せずにいた。
こんなところで行ける可能性が出たなんて…
そのとき、いろんな意味で沙羅が1軍にいる強さが分かった気がした。
でも、沙羅とは上手くやっていけそう。
さっき、舞台の練習の見学を"一緒に"行こうと自分から誘ってくれた。
つまり、プライベートでも遊んでくれる。
そういうことになる。
夕凪 沙羅
てか、ちゃん無くていいよ?沙羅で!
三室 弥生
分かったよ!沙羅!
よしっ!呼び捨てOKが来た!
1軍、特に派手系は自分達の地位が常に上だということを意識したいらしい。


だから、基本は"ちゃん"を付けないといけない。
親しい人や許された人だけが呼び捨てがOKに。
前回の下剋上教室で学んだことだ。


つまり、OKしてくれたということは私に沙羅が私に対して心を許したということだ。
これで私はバスケ部の中だと沙羅の隣に並べる。
あとは、リア充になれば一気に地位が上がるけど…
ここで焦っても失敗するだけ。
そう感じた私は、取り敢えずは今の状態でいいだろうと思い、思考を止めた。

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