家の方向が分かれる交差点に向かう。
帰り道は暗く、人が全然いない。
沈黙が続く中、それを破ったのは怜央だった。
私の続く言い訳に怜央が不満げな顔をする。
何で怜央がそんな顔するわけ?
手伝ってくれるとは言ってたけど、実際はほぼ私が実行しているんだけど?
怜央の不満に対して今度は私が不満を抱いた。
夜に2人で喋りながら歩いていると、ふとあの沙月が殺された日のことを思い出した。
私の驚きの声に怜央は「ああ。」と呟き、スマホで何かを調べ始めた。
そして、私に見せてくれたのは「優しさの果てに消えた少女」と書かれた1つの事件についての記事。
「優しさの果てに消えた少女」
20XX年3月14日、市立○○小学校で4年生の女子生徒1人が3階の位置にある教室の窓から飛び降り自殺を図った。何とか女子生徒は一命は取り留めたものの重症だということ。
飛び降り自殺を図った女子生徒は周りから見てて、いつも正義感が強く弱い者いじめを絶対に許さないという信念の持ち主らしい。
学級ではいじめがあり、当時いじめの被害にあっていた子役として知られる黒崎錬君を庇ったことでいじめられるようになったと錬君本人が証言。
学校側は担任の教師がいじめの存在を知っていたにも関わらず報告しなかったと主張したが、飛び降り自殺を図った女子生徒の両親に深く謝罪をした。
いじめの主犯となっていたのは女子生徒2人。他の人は主犯の2人に言われて一緒にいじめたと口を揃えて言った。主犯の2人は1年間、少年院に入るという事だ。
そう言われ、私は記事の日付を見た。
今から7年前の記事だから…私が10歳のとき。
沙月ともう1人の女子を主犯に黒崎錬君をいじめていたところ正義感の強い女子に言われて、いじめの標的を変更。
そして、いじめにいじめた結果……
そんなことを怜央が呟く。
別にもう怜央に調べてもらう必要は無かった。
全部、自分でやった方が早い。
前回もそれで下剋上を果たしたのだから。
交差点に辿り着き、赤信号で止まる。
車が近付いてきたときに足を1歩踏み出す。
危ないと思ったのか私の腕を怜央が掴んだ。
だから私は…
…自分の腕を掴む怜央の手の方の腕を掴むと遠心力を利用して、私は歩道へと戻ったのだった。
1人、歩道に立った私。
思いっきり道路に投げ出されバランスを崩す怜央。
「は…?」と乾いた声が私の耳に届く。
私は言っといた。
そう告げ、背を向け歩き出す。
背中に甲高いブレーキ音とブチブチッと肉の千切れるような音が聞こえた。
どうやらやってきてたのは小型車じゃないみたい。
交差点は信号だけで暗いから、私の顔なんて見えるはずないだろう。
となると、怜央は事故で死んだことになる。
それでいい。
あと少しで完全勝利になる私の下剋上については誰も知らなくていい。
怜央、ごめんね?
最初は殺すつもりじゃなかったけど、やっぱり最後は口封じをしないと。
店や防犯カメラが無い場所を通って帰った私は何事もなかったように夜ご飯を食べ、お風呂に入って、そして、寝たのだった…。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。