放課後、私は沙羅とInfinity劇団の練習場に向かっていた。
何回か見たことがあるバスケットコート。
今日も小さな子達がバスケをして、遊んでいる。
柚稀の家の近くってわけね…
バスケットコートから少し歩くと、『漣』と書かれた表札がある大きな家とその隣に練習場があった。
沙羅が門を開け、中へ。
私もその後を追って中へと入った。
沙羅が防音扉を開けると、そこはホールだった。
ホールのステージからは大きな声が聞こえてくる。
そして、その中の1人が私達に気付くと…
沙羅はステージ上に走って上がっていく。
本物だ…
少しびっくりしながら、私もステージ上に上がる。
「よろしく。」と漣さんが頭を軽く下げる。
ステージ脇に移動すると、再び練習が再開。
漣さんの厳しい指導の声が響いていた。
再開はしたけど…
横から風が吹いたと思うと、劇団員からの驚きの声が上がった。
漣さんに飛び蹴りを食らわした柚稀。
漣さんはいつものことなのか腕でガードしていた。
私がそう思ったのは見たまんま。
柚稀とは全くの別人のように見えたから。
いつもの何処かほんわかとした雰囲気は微塵もなく目付きは鋭く冷たい。
いつもと真逆に見えた。
今すぐにでも殴り掛かりそうな勢いの柚稀を悠翔君が後ろから止める。
半ば、キレかかった柚稀が漣さんを睨み付ける。
その言葉に劇団員の人がしんと静まる。
無名ということにさらに驚く劇団員達。
公平な目で配役を選ぶ漣さんがいきなり無名の人を入れて、さらにそれが主役に最も近い役となると、驚くのも無理がない。
異常に父親を嫌う柚稀を見て、劇団員は仲の悪さから言わなかったと思った感じがした。
ステージ上に飛び蹴りの際に落としたリュックを背負い、柚稀が漣さんに背を向ける。
それだけを言うと、柚稀は私と沙羅に全く気付かないまま練習ホールからいなくなった。
何事も無かったように練習が始まり、カムパネルラ抜きで最初から最後まで見せてくれた。
やっぱり、Infinity劇団にまでなると、あの学校での演劇は比べ物にならないと思った。
流石、即日完売の超人気劇団……
最後まで見終わると、私達は感想を漣さんに伝え、練習ホールから去ったのだった…。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。