第146話

2学期 _ 行方 Ⅱ
1,140
2020/06/06 12:12
ポタッ……ポタッ……ポタッ……
男子
や、やめろ……!
空閑 柚稀
……。
男子
あ"ぁっ!!
空閑 柚稀
……これが最後だよ、月城楓は何処。
男子
話す!話すから一旦離せっ!!!
私は掴み持ち上げていた男子の首を離す。

地面に尻もちをついた男子の目には私に対する恐怖の色しか浮かんでいない。

身体中のあちこちから流れる私の血は鉄パイプやカッター、ナイフ、床を赤く染めた。

でも、ちゃんと気を付けたせいで血が着くと目立ってしまうジーパンには着かなかった。
空閑 柚稀
で、何処。
男子
知らね ─────
知らない、と言いかけた男子の顔面を私は今一度殴ろうと拳を向ける。
男子
待て待て!最後まで聞いてくれ!!!
ヒュッ!と言う音が顔面スレスレで止まる。

身の危険に震え上がった男子に私は後のことを言うように目で促す。
男子
確かに俺は居場所は知らねぇ!でも、俺達よりもっと上の奴らは知ってるはずだ!
空閑 柚稀
お前らが誘拐したってことに間違いは無いんだね?
男子
話を聞いただけで事実かって言われたら分かんねぇ、が月城って奴を拉致ったって話を上のやつから聞いた。何とも榎本さんの気に触ったとか…
空閑 柚稀
ふ〜ん…分かった。お前は居場所を知らないでいい?
男子
ああ、本当に知らねぇよ!
空閑 柚稀
質問を変える、楓の居場所を知っている人間は誰?何処にいる?
男子
知ってんのは多分…最高幹部の奴らか榎本さんくらいだ。ここにいる奴は全員知らねぇ。場所は…
空閑 柚稀
もう答えなくていい。榎本が知ってるなら直接アイツに聞く。
拳を顔面から遠ざけると、私は落ちていた黒い帽子を拾い被ってその場から去った。

途中のコンビニで包帯やガーゼ、絆創膏、湿布を買うと千代瀬高校に向かいながら手当をする。
空閑 柚稀
やっぱりアイツか…
今は昼休み…
なら、私服でもさっと行けば問題ないはず…
ふと窓に映った私の姿は想像以上のボロさで一人で懐かしさから笑う。

昔はよくこうやってボロボロになってたっけ。

そんなことを思いながら私は千代瀬高校に着くと、昇降口に向かう。
空閑 柚稀
っ…!
いきなり襲った不吉な予感に身を震わす。

何故か私は上を見た。

最初に目に入ったのは私の教室…2年B組の窓で何か運命的なことを感じて、昇降口に向かう足を止めてしまう。
空閑 柚稀
行かなきゃ…
そう思ってからの実行は早くて。

先生に怒られるなんてことは考えなくて。

駆られる衝動に従って私は校舎の溝に足をかけて一気に登った。

窓枠に着いて見たのは…
燎 颯斗
マジ、かよ…っ…
痛そうな顔をして人差し指を掴む颯斗だった。
榎本 凌久
月城が誘拐されて残念だなぁ?
燎 颯斗
……誘拐?
榎本 凌久
あっ、口が滑った。
榎本への殺意を"俺"は必死に抑える。

颯斗は…あの状態なら"折れた"より無理やり"外された"の方が近いからどうにかなる。

空閑柚稀を演じろ。
ちゃんと"私"を演じろ。
まだ早い、まだ…失敗してはいけない。
燎 颯斗
お前のせいだったんだな…。なら、楓の居場所を教えろ。
……"私"は息を吸った。
空閑 柚稀
私も知りた〜い。楓の居場所とー…颯斗の指が折れてる理由。
燎 颯斗
え?
窓枠に座って、榎本を軽く睨む。

すると、視界の端にいた拓哉からの心配そうな視線が刺さった。
倉科 拓哉
ゆ、柚稀。どうしたんだ…?
空閑 柚稀
楓探してたら、榎本の下っ端達に絡まれてさー、もしやと思って喧嘩になって全員ボコして聞いたら、総長と最高幹部しか居場所は知らないって言われたから聞きに来た。
榎本 凌久
ったく…使えねぇ奴らだ。
空閑 柚稀
で、楓は何処。
榎本 凌久
教えるわけないだろーが。
でしょうね、そんなの分かってる。
空閑 柚稀
う〜ん…じゃ、選択肢あげる。1、ボッコボコにされて吐く。2、大人しく言う。
榎本 凌久
いや、3だな。空閑は返り討ちで病院送りが1番いい。
こんな面倒臭いこと言い合ってる時間が無駄だということに私は気付く。

だから、いつしか教えてもらった相手の考えを読む方法を使うことにした。
空閑 柚稀
千代瀬、平薙、津埜…
千代瀬周辺の地名を聞いていく。

すると、諷村と言ったところで微かに目が泳いだ。
空閑 柚稀
一丁目、二丁目…
詳しく聞くと今度は四丁目で目が泳ぐ。

ここだ、諷村四丁目。

私は居場所の確信に思わずニヤリと笑う。
空閑 柚稀
…ありがとう、諷村四丁目だね。
榎本 凌久
は?
空閑 柚稀
もう用事ないからいいや、じゃ。
窓枠に座っていたが、後ろに倒れる。

青い空から地面が見えた瞬間に手を伸ばして、雨を伝える様のパイプを掴むとそのまま遠心力の勢いでフェンスに辿り着く。

そして、そのままフェンスを乗り越えると私は諷村四丁目に向かって走り出したのだった。




















目隠しに耳栓、何も見えない何も聞こえない。

何をしてたのか思い出せない。

何でここにいるのか全く分からない。
月城 楓
……。
肌に当たる冷たい感覚は金属。

形からして鎖。

背中に柱があるから私は柱に鎖で拘束されていると考えるのが正解だろう。
喧嘩、しなきゃ良かったな。


ふとそんなことを思う。

あの時、もっと違う方法でアイツを助けることが出来たならこうはならなかった。


まぁ、アイツの正義感も強過ぎるけど……


状況が把握出来ないからどうしようもない。

今は何時だ?あれから何時間経ってる?

見えない誰かにボロクソにされて全身が痛い。

てか、飲まず食わずでめっちゃお腹空いた。


………早く"家"に帰りたい。


居場所を無くした私の帰る場所に。

今この間にアイツに何かあったら龍さんになんて報告したらいいんだろう。

居場所をくれたのに本当に申し訳ない。
その時、私のいる場所に風が吹き込んだ気がした。

音は聞こえないけど、感覚がそう言っている。

人の気配を近くに感じて私は覚悟を決める。

殴られるか蹴られるかと思っていたが、その人は何故か私の耳栓と目隠しを取った。

目の前が一瞬真っ白になる。

段々と黒が見えてきて、自分を締め付ける鎖の形がハッキリと見えてくる。

そして、前を向いた時にいたのは…
月城 楓
柚稀…
空閑 柚稀
やっと見つけた。
…傷だらけの手でピースする柚稀だった。

その姿はボロッボロで顔に黒い…黒の濃さ的に血だと思われる水が伝っている。
空閑 柚稀
あー、楓の怪我が想像してたよりマシで良かったぁ…
月城 楓
ここにいるってどうやって…
空閑 柚稀
気合いで!ほら、朝ごはん食べて手当したら学校に行こ。
月城 楓
学校?今何時?
空閑 柚稀
えっと〜…朝の7時半。
月城 楓
あれから何日経った?
空閑 柚稀
楓が帰った日を入れると…4日目?
月城 楓
そんなに…
柚稀のおかげで南京錠が取れて何日もお世話になった鎖が体から離れる。
空閑 柚稀
立てる?
月城 楓
うん。
柚稀の後をついて行って、部屋を出るとそこには榎本の部下だと思われる奴が大量に倒れていた。


マジかよ……こいつら全部、柚稀が一人で…


敢えて聞くのはやめた。

柚稀の傷を見るに多分合ってるし。
月城 楓
柚稀。
空閑 柚稀
何〜?
月城 楓
助けに来てくれてありがと。
心からのお礼を伝えると柚稀は驚いた。
空閑 柚稀
そんなお礼を言われるまでもないよ〜
月城 楓
めっちゃボロくなってんじゃん。
空閑 柚稀
別にこんなの痛くなんかないよ、友達を助ける為なら。
一瞬立ち止まってそう笑った柚稀は再び歩き出す。

私はそんな背中を止まって見ていた。
友達の為にここまでする柚稀は凄いと思う。

本当に。
月城 楓
……そっか。
私はそう言うと、小走りで帰り道を調べながら先を歩く柚稀を追いかけたのだった…。

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