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第154話

碧座小 3学期 _ 忘却 Ⅰ
八代
…………錬、最後まで守ってあげられなくてごめん。
4年生も終わりに近付いた3月14日、冬の寒さがなくなり春の暖かい風が吹き込む教室。

みんなからの死ねコール。
駆けつけた馬鹿は押さえつけられて動けない。
そんな笑えるような状況の中、八代琉希るきは一筋の涙を流して後ろへと倒れた。
八代の行動に目を見開いた黒崎は押さえつけていた男子達を振り払うと、駆け出し八代に手を伸ばす。
三室 姫華
…もう、遅い。
黒崎の手は空を切る。
何も掴めず何も無い窓に手を伸ばしてるだけ。
ここまで聞こえないくらいの小さな声で何かを呟いた黒崎は窓から下を覗き、顔を顰めその場にしゃがむ。
男子
うわっ、マジで飛び降りやがった。
女子
ね、ねぇ…これ、先生呼んだ方がいいんじゃない…?
女子
沙月ちゃん…姫華ちゃん…これどうするの…?
本当に飛び降りると思っていなかったのかビビったクラスメイトが私に意見を求めてくる。


何故、そんなこと聞くの?


…私はただ笑った。
三室 姫華
別にせんせーなんか呼ばなくていいんじゃない?ね、沙月。
峰本 沙月
それな。勝手に飛び降りたのはアイツだし。自殺でしょ?ウチら全然悪くないもん。
女子
そうかな…
峰本 沙月
元と言えばアイツが黒崎を庇ってたのが悪いじゃん?
三室 姫華
庇わなかったら自殺なんて考える必要なかったのにね〜
八代の自殺に絶望に満ちているか、泣き叫ぶか…その反応が気になり私は黒崎を見る。
黒崎 錬
う"っ…あ"ぁ…っ!!
苦しそうに頭を押さえて呻き声を漏らす。
そして、声にならない声を上げて動きを止めた。
黒崎 錬
……。
頭から手を離した黒崎は静かに立ち上がると、俯いたまま自分の席へと向かう。
横にかかっていた黒いランドセルから出したのは先生に許可をとっていつも持ち歩いている黒いスマホ。
肩で息をし、スマホをいじると耳へと当てる。
黒崎 錬
…救急です。…碧座小学校です。…名前は八代琉希、10歳です。
三室 姫華
は?アイツ、自分で…
絶望に満ちない、泣き叫びもしない。
慌てず冷静に119番通報するのが、いつも一緒にいた八代が飛び降りた時の黒崎の行動だった。

電話をしているはずなのに黙ってしまった黒崎はやがてついさっきまで八代がいた窓に視線を向ける。
黒崎 錬
周りに煽られ…校舎の3階、約8mの高さから飛び降り自殺を図りました。
そう一筋の涙を流して、呟くように言った。
同時に風が吹き込み黒崎の髪を揺らす。

私にはその全てが映像に見えた。
まるで映画やドラマのワンシーンでも見ているかのように思えてくる。
無表情の中、唯一流した涙はドバドバ汚い物ではなく一筋だけ、何処か切なさが増していた。

こんな時でさえも黒崎は変わらない。
変に騒がず、目の前の現実を見続けている。
峰本 沙月
マジ何なの…化け物じゃん……
沙月が隣で顔を引き攣らせて言う。
電話を終わらした黒崎は一筋の涙を袖で拭い、今度は先生を呼びに行こうと廊下に向かった。
黒崎 錬
……っ…
男子
錬君!!
黒崎は何の予兆も無く、突然倒れた。
瞼は開いているが、その目には何も映っていない。
ぼんやりと前を眺めているだけ。

そんな黒崎に駆け寄ったのは、八代と仲が良かった二人組男子のうちの一人、クラスで一番の弱虫君だった。
男子
錬君、大丈夫!?……熱っ…!
弱虫君は黒崎の肩を揺らし、手首に触れるとすぐにその手を引っ込めた。
峰本 沙月
何やってんの、アンタ。
男子
何って…何言ってるの?
有り得ないとでも言いたそうな顔。
質問を質問で返した弱虫君を沙月は睨む。
峰本 沙月
…質問を質問で返すのやめてくれない?
男子
言ってる意味が分からないよ…
峰本 沙月
はぁ…ほんと頭悪いね。そんな奴ほっときな。天下の神童様ならこのくらいよゆーでしょ?お得意の演技でさっさと立ってみせたら?
三室 姫華
こら、沙月〜!かまって欲しいだけなんだってー、そんなこと言っちゃ寄る人がいなくなっちゃうでしょ?元からいないけどさ。
黒崎 錬
………はぁ…実に馬鹿、らしい…
三室 姫華
はい?
握り締めた拳を床に打ち付け、黒崎はよろけながら立ち上がった。
私、沙月を無表情でじっと見つめながら話し出す。
黒崎 錬
強く出ようとも所詮は餓鬼…キーキーと鳴いてうるさいったらありゃしねぇ…同じ歳の餓鬼として恥じる他なし…哀れなものだ…笑っていられるのも今のうち…今回のことがテメーらの親にどれだけの迷惑をかけることか……まぁ分かるわけないよな、無知な糞餓鬼には。
小4が言う言葉だろうか。

こいつの言っていることがイマイチ理解出来ない。
ただ、馬鹿にされていることだけは分かった。
黒崎 錬
でも、良かったな…今の俺…精神的には持ち堪えられそうだが…この弱い体がどうもとてつもないストレスに耐えられないようだ…倒れた俺でも見て笑っとけ…
苦しそうに言うと机に付いていた手がズレ、再び黒崎はその場に倒れた。
今にも泣きそうな弱虫君の声が教室に響くと、溜息と共に一人の男の子が黒崎の横にしゃがむ。
男子
XX…ど、どうしよう…
男子
どーするも何もあるか。保健室に連れて行けばいいじゃん。代われ。お前にあんの脚力だけだろ。
男子
うん…
黒崎を背負いあげたのは弱虫君、八代と仲が良い基本的に無口な男の子。
普通と比べると正義感が強くこういった事は一切許さなそうだが、今回に限っては八代に口止めされていたのを私は知っている。
男子
……。
男子
どうしたの?
男子
……ん、いや、何も…ほら、行くぞ。
男子
ちょっと待って。
男子
は?さっさとしないと…
男子
峰本さん、三室さん。
峰本 沙月
何。
三室 姫華
……。
弱虫君に名前を呼ばれて私は弱虫君を見据える。
その視線に弱虫君はビクリと肩を震わせたが、黒崎と窓に視線を向けると私達を睨み返した。
男子
いつか味方がいなくなるよ。もういないかもしれないけどね。
三室 姫華
意味不明。別に私、紅音がいるし。ね?
八神 紅音
…えっ?う、うん。もぉ、姫華ったらいきなり話振るのやめてよー
違うところに気が向いていたのか私が紅音を見ると、気付いた紅音は慌てて返事をした。
峰本 沙月
クラスで一番の弱虫が随分と強気なこと言うんだ?私驚きだよ。
男子
相変わらずの馬鹿っぷりだな、お前。こいつ程、勇気の無い弱虫なのに変な時に勇気がある面倒臭い奴はあまりいない。
男子
ちょっとそれ酷くない?…まぁ、別に僕のことはいいとして、一生錬君に近寄らないで。僕もXXも錬君には唯一無二の友達と出会って、平穏な日々を過ごして欲しい。2人は少年院に行ったところで無駄そうだし…いつかこれまでやってきたこと相応の報いがあればいいね。
三室 姫華
あんた…っ…!
男子
行こ、XX。
男子
分かった。
そう言って、2人はいなくなる。

…初めて弱虫君に睨まれ、蔑まれた目で見られた。
腹が立って大きく舌打ちをした時、誰かが先生を呼んだのか教室にバタバタと先生達が来た。
救急車の音が遠くから聞こえ、同時にパトカーの音も聞こえたような気がする。
先生
三室さん!峰本さん!今すぐ職員室に来なさい!
峰本 沙月
ここ指名とか誰だし、チクったの…
三室 姫華
面倒臭いなぁ…
先生
早く!!!
三室 姫華
はいは〜い。今すぐ、行きま〜す。