琉希が倉科君に言った制限時間は放課後。
その意味はスグに分かった。
今日の放課後は委員会や部活があって、みんながスグに教室からいなくなる。
凌久は千棘のことを放って、先に帰ってしまった。
私も徹と帰ろうとしていた時…
教室の机の中に明日提出の宿題を忘れたことを思い出した私は早足で教室へ。
すると、燎君と楓、琉希が廊下にしゃがみ教室の様子を窺っていた。
聞こうと思った瞬間、楓に口を手で押さえられながら引っ張られる。
静かにと人差し指を立てる楓を見て、私は無言で頷くと教室を覗く。
そこにはピリピリとした空気の中に柚稀と倉科君が無言で向かい合っていた。
確か琉希と楓は委員会に入っていた。
それをサボってまで…
そんなことを思っていると、教室から声が聞こえ始めた。
紙を机の上に置く音とペンの取る音。
でも、ペンが動く音はしない。
急かすように言った柚稀。
すると、ペンが動く音が聞こえてくる。
ペンの動く音が途切れるとまた2人が話し出す。
柚稀が退部届けを取り、逃げるように教室から出ようとする。
廊下に出てきて、私達は見つかると思った時に柚稀は立ち止まって後ろを向いた。
その言葉を笑顔で。
心から祈るような優しい声で。
…でも、寂しいのかその声は少し震えていた。
柚稀が驚きの声を上げたのは隠れていた私達を見たからじゃない。
倉科君が退部届けを取ったからだった。
ビリッ!
紙を裂く音。
まさかと思い、ドアから覗くと倉科君が退部届けをビリビリに破いていた。
横目で隣にいた楓を見ると、安心したような表情で少し微笑んでいた。
一息に言われた倉科君の言葉。
その言葉を聞いて、柚稀は…
そう目から一筋の涙を流して、クラスにいる時とは違う感情のこもった笑顔で笑っていた。
楓がいなくなり、気付くと琉希もいなかった。
燎君が教室に入ると、自然に見えるように1番廊下側の私の机から宿題を取ると、自分の背中へ。
そんな会話をしていると、開いていた窓から後ろ手に燎君が宿題を2人から見えないように差し出す。
私はそう小声で言って、宿題を取ると、足音を立てないようにしてその場から立ち去った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!