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第152話

2学期 _ 兎に込められた意味 Ⅱ
「ねぇ、柚稀?」

「何?」

「柚稀は何で兎が月にいるのか知ってる?」

「実際は月の海の形だけど…まぁ、疲れ果ててた老人に猿と鳥と兎が何か食べ物を持ってこようとしたけど、兎は何も持ってくることが出来なくて、自分を身を捧げた。その老人は実は帝釈天って神様で三匹の行いを見ようとしてたんだよね。それで帝釈天は兎を哀れんで月に甦らせて皆の手本にした…っていうのが由来かな。」

「これも知ってるのかぁ…」

「まぁね。」

「お母さん、頑張って調べたのに〜…」

「……何か話ズレてない?」

「…ズレてる。柚稀にプレゼント!」

「兎のぬいぐるみ?」

「そう!お母さん、頑張って作ったんだ〜」

「へぇ…てか、何で兎…」

「兎って月で輝いてるでしょ?柚稀が錬として頑張ってるからその努力が輝きますようにって。」

「努力が輝く、か…」

「気に入った気に入った?」

「まぁ。」

「良かった〜じゃあ、これからもこの兎シリーズを定期的に作るね。」

「え、まだ作るんだ…。」
空閑 柚稀
……。
熱でぼんやりとする意識。

そんな中、思い出していたのは今持っている兎のぬいぐるみを差し出す大好きなお母さんの姿だった。

あの頃はぼっちで話し相手もいなかったから、この兎に話しかけていた。

頭の中で想像すれば兎は俺の言ってることに答えてくれるし、話も聞いてくれる。

現実逃避しているのは分かっていたけど、それでもどうしようもない時はこれ以外に対処法がない。
空閑 柚稀
兎って…孤独だと死んじゃうらしいね。まぁ、病気とかなのに平気を装って飼い主がいない時に死んじゃった兎がいるからそう言われるだけだけど…
倉科 拓哉
…らしいな。
空閑 柚稀
何でだろうね…
自分で理由を言ってるのに何でだろう、と意味が分からない言葉が口から出てくる。
空閑 柚稀
強がって周りには平気、ってさ…まるで俺みたい…
お母さんはどんな気持ちでこの兎を作ったのだろう。

本当に月の兎みたいにみんなの見本として輝きますように、なのか。

……それとも俺が兎だって気付いて欲しかったのか。

でも、今となっては分からないこと。

前に聞いとけば良かったと後悔してしまう。
空閑 柚稀
……なぁ、拓哉…
倉科 拓哉
何だ?
空閑 柚稀
気味悪がられる俺だけどさ、また遊んでくれる?兎みたいに孤独死するかも…
倉科 拓哉
………少なくとも俺が勝つまでは何回でも遊んでやるよ。
空閑 柚稀
ははっ、なら負けられないな…
倉科 拓哉
取り敢えず、今は寝とけ。
空閑 柚稀
だね…立たせてくれない?ほんと、体が重くて言うこと聞かない…
手を前に出し、拓哉に立たせてもらう。

その瞬間、目の前はぐにゃりと歪み、気付いたら膝を着いていた。
倉科 拓哉
ちょっ…大丈夫かよ…
空閑 柚稀
目眩がしただけ…ったく、夕凪ちゃんのせいで散々な目に…
布団に戻るのは無理だと感じた俺は布団から掛け布団と毛布を引っ張り出すと、床の上でそれに包まる。
倉科 拓哉
電気は?
空閑 柚稀
…点けといて。
倉科 拓哉
分かった。じゃあ、お大事に。
空閑 柚稀
ありがとう…
バタン…とドアの音がして部屋にいる人の気配が俺だけの物になる。
空閑 柚稀
…兎は兎でも俺は月にいれない兎か…。
手を伸ばし取った兎は首を傾げる。

お母さんは努力が輝くように、って願いを込めて俺にこれをくれたけど実際はその努力はあまり良くない方向で輝いてしまった。

そして、もうすぐ俺の願いが完全に叶う。

やっと…ずっと願った三室弥生の死。
空閑 柚稀
これでもうすぐ"私"ともさよなら。三室ともさよなら。もう一度、平穏な日を…
何も考えなければ、兎は俺が話しかけても答えない。

俺を見つめて何も言わない。

それこそが普通。
空閑 柚稀
ははっ……ぬいぐるみ、だもん…な……




















数日後、すっかり元気になった俺は学校に行く準備をしていた。
空閑 柚稀
あ〜!つっかれたぁ…
漣 悠翔
ちょっ、コンタクト忘れてる。
空閑 柚稀
あー、ほんとだ。ずっと家にいたら完全に忘れるわー。
漣 悠翔
相変わらず吹っ飛んでるね…
空閑 柚稀
えっ、ひど〜い!いつも通りっしょ!
漣 悠翔
その姉さんのテンション怖いよ…
空閑 柚稀
怖いなんて失礼な!
漣 悠翔
はいはい…それよりも姉さん、夜中にリビングの前まで来たりした?
空閑 柚稀
熱出てるし、トイレと風呂以外は部屋から出てないけど?
漣 悠翔
え?じゃあ、結依か玲依?
結依
柚姉が寝込んでる時は私達入らないよー
玲依
そーそー
空閑 柚稀
何かあった?
漣 悠翔
いや〜…姉さんが寝込んでる間、ずっとリビングで過ごしてたんだけどさ。夜中にリビングのドアの方から音がして…
空閑 柚稀
あ、朝から怪談?
漣 悠翔
まぁ聞いて。それでドア開けたら姉さんが母さんから貰った兎のぬいぐるみが落ちてるんだよ、しかも鳴る度毎回。
玲依
でも、ぬいぐるみってお姉ちゃんいつも一緒に寝てんじゃん!
空閑 柚稀
そうだけど…
結依
夜中に兎さんが歩いたんじゃない?
たまーに悠翔が部屋に入って来るのは分かったけど、それ以外は大体覚えていない。

ほぼ寝てるし…
漣 悠翔
朝でも夕方でも鳴ってた。それでさ、ここからが不思議で落ちてるから姉さんのところに戻しに行くじゃん?
空閑 柚稀
うん。
漣 悠翔
部屋に入ったらいつも姉さんの熱が上がってたり、置いてある水が切れてたりしててまるで兎がそのことを伝えに来たみたいに感じたんだよね。
空閑 柚稀
確かに体温が上がって苦しい時、ほぼ確実に悠翔が来たけど…えっ、兎が落ちてたから来たの?
漣 悠翔
そう。
玲依
あっ!俺、分かった分かった!
結依
何がー?
玲依
きっとお母さんが兎になったんだよ!お姉ちゃんが頑張り屋だからほっとけなくて兎になって手伝ってるんだと思う!
結依
あっ、それあるかも!兎さんは飛躍って意味にもなるんだって!お母さん、試合でいつもジャンプしてたから兎さんになったんだよ!
玲依
お母さんなら絶対、月までジャンプしてそう!
結依
じゃあ、お母さんは月の兎さん?凄い!柚姉の兎から私達のことも見守ってるんだよ!
お母さんは月の兎になって俺の持っている兎にぬいぐるみを通じて俺を見守ってる。

2人の結論に俺と悠翔は思わず顔を見合わせた。
漣 悠翔
……。
空閑 柚稀
……。
結依
柚姉とお兄ちゃんはどう思う?
玲依
お母さん、月の兎になったんだよね?
漣 悠翔
いや、母さんは…
空閑 柚稀
そうだな、兎になった。
俺は朝ご飯を置いて、席を立つと部屋に向かった。

ベッドの上に座る兎のぬいぐるみを抱えるとみんながいるリビングに戻る。
ほんと、コイツらの想像力は凄いよ……
空閑 柚稀
なら、この兎は俺のじゃなくてみんなのぬいぐるみお母さんだね。
兎のぬいぐるみをソファに座らすと俺は席に戻る。

すれ違うように結依と玲依は立ち上がると、ソファの上のぬいぐるみに抱きつきに行った。
漣 悠翔
…いいの?それで。
空閑 柚稀
うん。本当に結依と玲依が言った通りかもしれないよ、お母さんこそ兎みたいな人だから。
お母さんはいつも帰れる日には例え遅くなったとしても帰ってきて、俺達の顔を見に来た。

……病気のこともクソジジイ以外は隠してたし。

病院の先生に話を聞いたけど、死ぬ少し前に千代瀬の部員にバスケを教えたって言ったら物凄く驚いて「奇跡が起きた」と言われた。

末期でお母さんは相当苦しかったはず。
運動なんかしたらもう体への負担が強いからその場で倒れる可能性がとてつもなく高い。

兎は病気でも周りにはいつも通りの態度をとる。
お母さんなら倒れてる老人を見つけて、何も持ってくることが出来なかったら自分の身をあげそうだしね…
空閑 柚稀
…お母さん、自分を兎と重ねたのかな。仕事で忙しいから帰って来れない日もあったからいつも独りで友達がいなかった俺が"独り"にならないように自分の身代わりとして。
漣 悠翔
母さんなら……あるかもね。
空閑 柚稀
なら、大丈夫。もう離れられる。
………今の俺には"唯一無二の友達"がいるから。