昨日の怖い程の妬みの目は今日これから起きることを私に予想させていた。
嫌な予感がして私は昨日の打ち合わせの後に沙羅ちゃんの後をつけたのだが、まぁ唯我への質問の後に少し離れたところで長考。
『柚稀ちゃん…あの日の屈辱、私はいつも忘れないよ……』
『勝てっこないのは分かってる…ちゃんと理解してる…私が勝ってる唯一のことでも、倉科君がそこら辺の男子みたいにそういうところで人を好きにならないのも見たら分かる…全部分かってる…』
聞こえてくる沙羅ちゃんの独り言の内容がとにかくめっちゃ怖い。
え、私何かした?何もしてないよね?
てか、私のこと地味にディスるのやめてほしい。
取り敢えず、沙羅ちゃんに恨まれてることとその理由に拓哉が関わってることは分かっていた。
どうせ仲良くしてることを妬んでるんだろう。
転校生でやってきたくせに、的な感じで。
沙羅ちゃんが拓哉のことが好きだって言うのは転校してきてからスグに気がついた。
本人は気付いてないけどかなりの回数チラ見して妄想でもしてるのか顔がニヤけてるのを見たし。
拓哉が私のこと好きって噂も流れてるから、その噂を信じたなら私は相当妬まれる。
私と錬が同一人物ってのも察してたよねぇ…
そうなったら、どちらかというと単純思考の沙羅ちゃんが考えそうなのは一つ…
………私のことをネタにして拓哉を脅して付き合う。
友達を大切にする拓哉のことだから、ネタが私じゃなくて颯斗とか楓でもOKする可能性が高い。
どうしたらいいんだろう…
そんなことを考えながら上履きに履き替えると私達の教室へと向かう。
教室の扉の前で唯我と話してた弥生ちゃん。
ズレてくれ中に入ると案の定、沙羅ちゃんが拓哉に話しかけに行っていた。
私は悟りながらも普通の反応をして、颯斗と楓は不思議そうに見る。
冗談なのかニヤニヤとしながら言ってきた颯斗。
分かってる、どうにかしたいよ。
そう思うと自然と大きな溜息が零れていた。
取られちゃうじゃなくて、無理矢理沙羅ちゃんに取られるんだよ拓哉は。
ただでさえどうすればいいのかで悩んでいるところにこんなことを言われると気分が悪い。
自然と癖で私はブレザーのポケットに手を入れた。
弥生ちゃんがそんなことを私達に聞く。
だから、私は考えていた予想を答えることにした。
クソジジイの話は聞きたくない、今は尚更。
少し不機嫌になりながら席に着くと何かを颯斗に言った楓が私の後ろの席に座る。
色んな硬さの鉛筆の中から1番硬い芯の鉛筆を取ると私は授業のノートを出して、私が想像した宇宙の絵を描き始めた。
今は何も見たくないし、何も考えたくなかった。
そんな私を裏切るように椅子を引く音が後ろから聞こえてきて、私は手を止めると振り返る。
すると、沙羅ちゃんは拓哉に頭を下げて…
廊下にいる女子の騒めき、クラスの人の視線。
沙羅ちゃんは全てを分かった上で拓哉に断りにくい状況を作る為、そして了承を得たことをみんなに見せる為にわざとやったんだ。
困った表情をしている拓哉に沙羅ちゃんが小さな声でそう言うと、拓哉の耳元に口を寄せた。
私は沙羅ちゃんの口元をじっと見る。
向こうの方で颯斗が驚きの声をあげる。
楓も意味不明と言いたそうな表情をしていて、誰もがこの事態を受け入れることが出来ない。
まぁ…誰もって言っても私以外だけど。
沙羅ちゃんが大袈裟に拓哉の腕に抱きつく。
そして、私と目が合った瞬間ニヤリと笑った。
そんなのが嬉しいのか、しょうもねぇ…
私はしょうもなさ過ぎて見ていられなくなると背を向け、絵の続きを描き始める。
あと足りないのは何だろ…
あ、ここにアンドロメダ銀河を置いてっと……
目立つ月が独りになって何か可哀想だから本来はないけど、一等星を何個か…
中途半端過ぎて…いや、振り返るのもめんどくさくて私は描きながら問う。
似合うか、ね…
見た目だけなら本当に似合っている、見た目だけ。
私の鉛筆を動かす手がピタリと止まる。
どいつもこいつも勝手なこと言いやがって……
この際、ハッキリと言ってやろうか。
その言葉に沙羅ちゃんは驚く。
私の本心は言ったままのことで偽りはない。
好意については分からないけど、どっちにしても友達である拓哉が幸せと思える人と付き合うのならそれだけで私は幸せ。
それ以外に思うことは何も無い。
沙羅ちゃんの勝ちの笑み。
今回に限っては完全に私の負けだ。
私もどうにかしたいけど、錬であることはバラされたくないから強く出ることが出来ない。
楓の言葉に沙羅ちゃんの笑顔が少し引き攣る。
あぁ、そうだった。
沙羅ちゃんは確かInfinity劇団の入団試験に落ちたんだっけ…
……………同世代の綾ちゃんは合格したのにね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。