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第153話

2学期 _ 謝罪
八神 紅音
……。
夕日の綺麗な橙色に染まった外。
私は冷たくなってきた手をカイロと一緒に擦り、千代瀬高校の正門で立ち続けている。

あの日、図書館であった琉希ちゃんは千代瀬高校に通っていると言っていた。
なら、ここで待てば会えるかもしれない。


特にこれと言った言いたいことがあるわけではないけれど、ただ何となく見たくなった。
話して貰えなくてもいい、見たいだけ。

すると、敷地内から走る足音が聞こえてきて私は正門から背を話して振り向く。
でも、そこにいたのは琉希ちゃんじゃなかった。
八神 紅音
姫華……
したり顔で走る偽善者、姫華は正門の横に立っていた私に気付かずに正門を走って出て行くと独り言にしてはまぁまぁ大きい声で…
三室 姫華
このクラスは私の支配下…。ふふっ、お祝いにケーキでも食べよっ!
…と言って、走り去ってしまった。
何なの、アイツ……
この街に戻って来て姫華を見た時はかなり驚いた。
私が知っている姫華は“我儘”“高飛車”“自己中心”、更に付け足すなら言行相反で構成された人間だから。

あんな“質素”“友達思い”の姫華なんて知らない。
その変わりようから一緒にいるのが気持ち悪くなってわざわざ目立って沙月ちゃん達にいじめられいったのに…姫華から変わった“良い子”の桃香は私の為に下剋上でもしたつもりかな?

余計なお世話過ぎる。
昔の姫華ならこっちも上面の友情で適当に親友をやりつつ、他の友達になれそうな子を探した。
あそこまで行くと、陰キャな上に質素過ぎて一緒にいるだけで友達なんか作れやしない。

1軍のわりに常識人な綾ちゃんと絶対的正義な穂花ちゃんのおかげで見事に転校させることが出来た。
アイツが消えて、1人になった雪奈ちゃんは今までやってきた事を思い返したのかとても反省していた。

そういう懺悔の気持ちがあったから今のクラスは一学期が嘘に思えるくらい平和でみんな仲がいい。
平和を乱していたのは沙月ちゃんと姫華だった。
八代 琉希
……あ、八神じゃん。
八神 紅音
!……
丸めたノートを持った男の子…琉希ちゃんが正門から出て来て私を見るなり立ち止まる。
私が何故ここにいるのか分からない様子。でも、前回のような冷ややかな視線で見ることは無かった。
八代 琉希
誰かに用事?
八神 紅音
い、いや、何となく琉希ちゃんに会いたいなって…欲を言うなら黒崎君も……
八代 琉希
俺に?
八神 紅音
本っ当に何となくで特に理由は…
八代 琉希
えぇ、変なの。
私の返答に面白可笑しそうに笑った琉希ちゃん。
八代 琉希
錬なら体育館にいるけど…行く?
八神 紅音
大丈夫そうなら行きたい。
八代 琉希
駄目だったとしても凸って怒られんの俺だろうしいいよ、行こう。
逆を向き、軽く微笑んで歩き出した琉希ちゃんの後を追う。
一瞬だけだが、その笑みを浮かべた横顔は何処か柚稀ちゃんに似ているような気がした。

琉希ちゃんと歩き、元気な声が聞こえる体育館へ。
固まる女子達がいる入口を避けて、開いていた横の入口から中を覗いてみると丁度休憩に入ったのか柚稀ちゃんは顧問の若い男の先生と話していた。
八代 琉希
柚稀。
空閑 柚稀
…試合、近いんだけど?
先生
そんなこと言わずに行ってきな。
空閑 柚稀
はぁ、分かったよ。颯斗、また少し抜けるけどこの後もいつも通りに。何かあったり誰か質問あったら来て。
顧問の先生に促され、柚稀ちゃんはそう言うと私達の方にやって来た。
空閑 柚稀
全く、次は何のよ……紅音ちゃん?
入口の外で待っていた私を見るなり名前を口にしながら柚稀ちゃんは固まる。
答えを求めるように隣の琉希ちゃんを見るが、琉希ちゃんはニコニコと笑うだけ。
空閑 柚稀
紅音ちゃんがこの学校までどうしたの?桃香ちゃんならもう帰ったよ?
八代 琉希
特に理由は無いんだってさ。俺と神童様を見たくなっただけって。
空閑 柚稀
……口滑らせたのか?お前。
八代 琉希
いーや、ほぼ自力。俺は最後の一押しをしただけ。あれ?八神の話しなかった?反省してたって。
空閑 柚稀
聞いてねぇよ…
大きな溜息を零した柚稀ちゃんは外に出てくる。
体育館から1歩出てきただけなのに、視線はゆるっとした眠そうなものではなく、全てを見透かすようなものに変わっていた。

その視線に私は息を飲む。
間違いない。今も昔も変わらない、黒崎君の目だ。
空閑 柚稀
一押しもするなよ。俺だって分かるのは冬休み明けまで公表しないのに。ほんとそれで計画誰かに滑らした瞬間、これでもかってくらい叩くぞ。
八神 紅音
沙月ちゃんと姫華のこと?
空閑 柚稀
おい。
八代 琉希
心配すんなって。
口では心配ない、そう言いながらも不機嫌そうな黒崎君の反応を見た琉希ちゃんは私の背後に隠れるように数歩下がった。
その態度に黒崎君はさらに溜息を重ねる。
八神 紅音
…あ、あの…多分…いや絶対に黒崎君は私の事嫌ってると思うけど…本当に申し訳ないと思ってる。
空閑 柚稀
何だ、わざわざこんなところまで謝罪しに来たのか?
冷ややかな視線が私を貫く。
黒崎君の瞳に私は映っていない。
他の何かを見ている。
八神 紅音
…私と姫華は言葉にしないとお互いのことを友達だって言えない。言葉にしても上っ面の薄っぺらい友情で私はアイツの都合の友達だった。
空閑 柚稀
……。
八神 紅音
でも、まだ1人にならないだけマシだと思った。黒崎君みたく周りを拒否して、嫌われ虐められるならアイツといた方がマシな人生だって。
空閑 柚稀
随分と酷い言いようで。
私は小さく頷き、言葉を続ける。
八神 紅音
琉希ちゃんには言ったけど…黒崎君の傍に琉希ちゃんが現れてから“羨ましい”以外に何も無かった。素っ気ないのに何だかんだで2人で仲良く帰る姿とか、学校で1度も笑わなかった黒崎君がたまに琉希ちゃんと話してて笑ったりとか。
だから、私思ったよ…と小さく呟くと黒崎君の目を真っ直ぐと見る。
八神 紅音
友達って数より質なんだって。私がやってることなんて嫉妬でしかない。全部、私が悪い。自分の身を守る為に見捨てるのは間違ってる。
そうハッキリと告げる。
すると、黒崎君の瞳に私が映った。
ほんの一瞬、ほんの一瞬だけだけど確実に黒崎君は私のことを見た。

少し驚いたように私を見ると、黒崎君は真一文字だった口元をフッと緩める。
空閑 柚稀
気付くのが遅せぇ。全く…俺に謝罪に来る奴は変人しかいねぇな。
八代 琉希
他にいた?
空閑 柚稀
んー、まぁ、昔に。
懐かしいことを思い出したのか柔らかい表情で頷くと、黒崎君はスっと視線を私に戻す。
空閑 柚稀
八神。
八神 紅音
は、はい…
空閑 柚稀
あの事は水に流してやる。その代わり…
黒崎君が手を伸ばせば届く距離に来て、私は叩かれると思い両手を握った。
すると、私に向かって伸びた黒崎君の手は肩を掴み、くるりと後ろを向かせる。
空閑 柚稀
…ちゃんとるーにも謝っとけよ。
八神 紅音
!……
慌てて振り返るもそこに彼の姿はない。
「こら、試合前なんだからちゃんとやれー!」と怒りながらも楽しそうに声を出す柚稀ちゃんの背中が見えるだけだった…。