3年生。
みんなが就職か大学かを考える年。
千代瀬高校は2年生になるときはクラス替えがあるけど、3年生のときは受験のために環境を変えないようにクラス替えをしないらしい。
だから、スクールカーストがぶっ壊れたクラスのまま3年に上がることが出来た。
俺と徹で本当のことを公表したのは本当に大革命みたいに業界に波乱を起こした。
昔、テレビから消え去った"神童"と"異才"。
消えてから5年経って再び姿を現した時、その片方は実は女だった。
男性が女声を出すのはやりやすいらしい。
が、女性が男声を出すのは生まれつきの声に限られるからボイトレをしても難しいらしい。
今日は番組での撮影。
楽屋でお菓子を食べながらそう徹に言うと、徹は苦笑いを浮かべるだけだった。
徹が今日の流れが書かれた紙から視線を上げると、何かを思い出したように手を叩いた。
楓が組長とか最凶じゃん…
本当にそうだった。
小学校の頃は俺は悲しいとは思わなかった。
でも、峰本沙月と三室姫華が強かったから俺をいじめてそれを知ったるーが悲しんでいた。
中学校の頃は自ら弱者に成り下がって虚ろな日々を過ごしていたけど、実際は心の中で声にできない助けを誰かに求めていて、助けようとしてくれた人達だって少ないけどいた。
全部、不平等な世界だったから笑えなかった。
だから、誰かが俺を見て笑顔になるのなら。
親友を1度は無くした黒崎錬がテレビの中で誰かに生きる勇気を与えることが出来たなら。
それはどんなに俺にとって嬉しいことか。
そう思うと、もう一度頑張りたいって思えた。
いつしか夢に見た普通の人になりたいなんて無理。
普通じゃない、それこそが俺なんだ。
みんなが困っている人に手を差し伸べたら。
みんなが悲しんでいる人を慰めれたら。
みんなが喜びを分かち合うことが出来たら。
そうすれば、多分平和な世界が訪れる。
きっと、三室姫華は自分のことだけを考えていた。
もしあれが小学校の頃に気付けて、一言でもごめんと俺に言ってたら未来は変わったかもしれない。
過去の行為を反省すれば、もしかしたらいい未来になったのかもしれない。
まぁ、もう終わった話なんだけどさ……。
この世界で笑うことが出来たら?
いつか全てが平等になって手を取り合えたら?
そうしたらきっとこの世界で ───
そう言って、小さく笑い合うと俺と徹は楽屋から出たのだった…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!